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性癖と信仰【ブチャジョル】

「セックスの後にこういうの着せるの、変態みたいじゃないですか?」
「変態でもなんでもいいさ。それしかなかったんだから」

 ぼくがからかうように言うと、ブチャラティは笑って返した。

 いつも通り、愛しあう行為をした後のことだ。すこしよろける脚のままシャワーを浴びてタオルで身体を拭く。さて寝間着を着ようと服をいつも置いてくれるカゴを覗くと、そこにあるのはYシャツだった。ブチャラティがたまに普通のスーツを着る(断じていつものスーツが変だとか言っているわけじゃない、断じて)ときに着る、白いシャツ。ぴしっとアイロンが掛けられていて、柔軟剤のおはなの香りがする。カゴには下着とYシャツしか入っていなかった。仕方なく用意されたままそいつを着込んだ。袖がぼくの腕よりも長くて、そのままだと手のひらを半分覆ってしまう。関節までまくって、前のボタンを留めるたびに、洗剤の香りがふわふわと舞う気がした。
 脱衣所を出て寝室に戻ると、すっかりきれいにされたシーツと、ベッドに腰掛けミネラルウォーターを飲むブチャラティがいた。スーパーに売っている中でも彼が好んで買うペットボトルが、ブチャラティがごくごくと音を鳴らすごとにゆらゆらと揺れている。ぼくが「ちょっと、これ」とシャツを引っ張りながら声をかけると、彼は水を飲む手を止めてローテーブルにボトルを置いた。

「あの、いつものぼくの寝間着はどうしたんですか」
「あいにく今乾かしてるところなんだ」
「生乾きでも構わないですけど」
「それじゃあダメだ、風邪を引く」

 ズボンもよこさなかったくせに、と文句を言いそうになったけど、手招きをするブチャラティに気づいて大人しく近づいた。ぼくが手が動きやすいようにまくっていたシャツをの袖を丁寧に戻して、ぼくの指に掴ませた。

「うん、これがいい」
「これが……じゃないですよ、なんでまた不便にするんですか」
「そのほうがかわいいからだ」

 いつもの顔で、えろおやじみたいなことを言うのはやめてほしい。ブチャラティはにこにことしているし、唇はきゅっと曲線を描いている。不満そうな顔をしているだろうぼくの頬を掴み、うにうにと動かして無理やり笑顔にさせようとしている。むかっとして手を外そうとするのだけど、自分の頬を触る暖かい手が段々いとしくなってしまって、諦めてしまう。頬をもちもちと触られて、ぼく自慢の柔らかい肌を触られるのは悪い気がしないのだ。彼相手になると、いつも許してしまう自分が憎たらしい。
 ブチャラティはそのままぼくを片手で抱き寄せて、やめてとも言い忘れたぼくの唇を塞ぐ。セックスの後のバードキスは、疲れを癒してくれるみたいで気持ちがいい。このままだと、ずるずると絆されて許してしまう。だめだと思って離れようとしても、自分より力のある彼にかなわない。

「ちょっと……ぼく、まだ文句が、言い足りないんですけど」
「なんだ?」
「ズボンください。それこそ風を引くでしょう」
「……ああ、」

 大人しくズボンを取ってくるのかと思えば、ブチャラティはぼくの下半身の下着を探し……下ろした。「ちょっと!!」と大声をあげて、ひとまわり大きいから隠されている下のそれを、シャツを伸ばして隠そうとする。甘やかしたいのか、からかわれているのか全くわからなくなってきた。膝のところにピンク色の下着が引っかかっている。キスで濡れてなくて良かった、と軽率な脳みその部分が独り言をつぶやいている。「日本のアダルトビデオだとな、Yシャツだけを相手に着せたままセックスするのもあるんだぜ」とぼくに聞かせたいのか、独り言なのかをいいながらぼくの足を撫でる。いつだれがブチャラティにそんなものを見せたんだ、ミスタかな、どうでもいいところで頭が回って、恥ずかしくなって、逃げ出そうとしてもまた腰をがっちり掴まれて動けない。

「ぶ、ブチャラティ……あんた、本当にYシャツしかなかったんですか、あんたがやりたかったからとかじゃないんですか」
「Yシャツしかなかったよ。ただそんなものもあったなと思って、試したくなった」

 ブチャラティが、ぼくのシャツのボタンを上から一つずつ外す。なんだか外しにくそうなのに、その顔は楽しそうだ。晒された胸に彼が顔を入れて、汗が浮いたぼくの胸にブチャラティの鼻があたる。匂いを嗅がれたら、汗を舐められたら、匂いでぼくが興奮しているのがばれてしまうかもしれない。彼の姿勢は、なんだかひとつの信仰のポーズみたいに見えた。

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