ジャンル:黒子のバスケ お題:最後の土 制限時間:30分 読者:457 人 文字数:1620字 お気に入り:0人

ツギハギブルー【海常】

 終わったのだという実感などまるでないのに、ブザーは鳴って歓声はわきあがった。相手チームは誰にともなく飛びつき抱き合い、あるいはガッツポーズをとり、つかみとった勝利に涙を流していった。
 ああ、と、すべり落ちた声は、自分のものとは思えないほど遠かった。誠凛のユニフォームの背中、もみくちゃにされる11番の姿は、セピア色に褪せた思い出とかぶって見えた。いつもは無表情を貫くくせにこんなときだけ満開の笑顔になるのが、少し憎たらしいなと思った。中学時代ならば、あの水色の頭にとびついていったのは黄瀬だったろうに……と。
 もう一緒に勝利を喜ぶことはできない親友は、ライバルで、あらたな光を見つけてみせて、青の精鋭をやぶってみせた。
 まるで映画を見ているようだった。現実味がなかった。

 試合とは、ああも呆気なく終わるものだったろうか。

 ロッカールームにまで辿り着いて、ベンチに腰をしずめる。ひどく痛むか、と降ってきた小堀の声に、ゆるゆると首を横に振った。お疲れさまでしたと、がらがらの声で激励される。二年生だろう。勝てなかったエースをなじることなく、応援と涙でかすれてしまった声でもって、敗北したメンバーを鼓舞する。
 もう終わってしまったのに、それでも必死に声を張る、そのさまがひどく悲しかった。
 試合はまだ残っているものの、その三位決定戦だって黄瀬はもう走れない。情けないが立ちあがることもできないくらいに全身が重くて、足がじりじりと痛む。不甲斐なさに膝が重くなる。その痛みは、勝ちたいからと感情にまかせて練習を詰め込んだ代償で、自業自得で。万全の体調だったら負けることなどなかった相手だろうに、万全の体調で望めなかったから勝てなかった。惨敗だ。完敗だ。先輩たちの最後の冬を敗北でしめくくった黄瀬は敗者なのだ。
 築き上げたチームとプレーする、機会はこの冬で最後なのに。何もかも終わってしまった。
 タオルをかぶって、顔をあげることも涙を拭うこともできない。勝ち上がってきたはずなのに、負けたことしかないみたいな心地だった。なぜだろう。練習試合だって春に誠凛に負けたあの一回を除いて全部勝った。夏のインターハイだって、桐皇に負けた準々決勝以外は全部勝った。ウィンターカップだってそうだ。誠凛に負けるまで、予選、本戦、全部ぜんぶ危なげのない試合運びで勝ってきた。
 盤石だと思っていた。最高のチームであったはずだ。

「お前には『次』がある」
 
 疲れた声はそれでも強く、エースの頭上から降り注ぐ。森山センパイ。独り言ちれば、頭の上に手のひらが乗る。小堀センパイ。ぬくもりの主を呼べば、苦笑がさざめいた。
 青の精鋭は優勝への道を断たれ、それでもこうして明日以降の未来を託そうとする。

「努力して努力して、できなくなるのはキツいよな」

 笠松の声だった。苦笑だろう。呆れたようなため息が続く。「けどな」。接続詞は否定だった。

「お前はこれから強くなれ」

 語調は強い。有無を言わせない響きに、黄瀬はただただうなずいた。頑張ったことを、知られている。成果も知ってくれている。欠点も認めてくれている。けれど、できるようになった、という、喜びを共有したことが一度もなかった黄瀬へ、仲間だと認める言葉を投げかける。
 見ればできた。それが当たり前だった。疑問に思ったことはなかったし、むしろ、お手本が目の前にあるのに何故できないのかと上から目線で見ていた気がする。
 勝利という成果を得るためにIHもWCもブロック、地区、県、関東と予選を勝ち抜き、夏のIHは準々決勝敗退。WCも、準決勝で負けてしまった。勝利を喜び合うことはなかった。敗北に涙するばかりで、勝利ひとつに頓着などしていられなかった。
 仲間がいて、だめなやつだと笑ってもらえる。容認されていることを嬉しいと思っている。
 だけど。
 同じ仲間との「次」はもうないのだ。

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