ジャンル:テニスの王子様 お題:悔しい絶望 制限時間:1時間 読者:441 人 文字数:2839字 お気に入り:0人

気付いたときには止められない


※選抜合宿中の設定



このところ、跡部が突っかかってこない。己を避けているようにも思う。事務的な会話はする。挨拶だって普通に交わされる。けれど、ただそれだけだ。いつもなら一言でも二言でも偉そうに余計な事を言っては喧嘩を吹っ掛けてくるのに、ここ最近はそれがない。

今だって。

「お早う、跡部」
「……あぁ、はよ」

ただ、それだけ。
いつもなら、「朝から渋い顔してんな。老け顔が更に老けて見えるぞ」などと茶化してきては俺を腹立たせるくせに。
碌に目も合わせないまま、跡部は短い挨拶をしただけでその場を去ってしまった。残されたのは、釈然としないままの己のみ。

「……、…」

何故か、モヤッとする。いつもある口喧嘩が、ないからなのか。本当に腹が立っているわけではなく(たまに無性に苛立つことはあるが)、冗談の域だったはずだ。俺と跡部の言い争いは。俺は、わりと楽しんでいる節もあった。お互いテニスや学業も同等のレベルであり、良きライバルでもあったから。そんな相手とやり合えるのは、何であれ楽しかった。
しかし、楽しんでいたのは俺だけであったのだろうか。自分でも知らないうちに、跡部を怒らせてしまっていたのだろうか。

「おはよー、あとべー」
「おはよう、ジロー。珍しいな、お前がこの時間に起きてるなんて」

芥川と笑顔で会話しているのを、遠くから見つめる。機嫌が悪いわけではなさそうだ。どうやら、俺にだけああいう素っ気ない態度を取っているらしい。やはり、俺が何かやらかしてしまったのだろう。記憶を辿っても、身に覚えがないが。

溜め息を小さく零し、朝食を取ろうと食堂へ向かった。




****



朝食後、朝の練習メニューに取り掛かる。いつもなら跡部から「仕方ねぇからこの俺が相手になってやるよ」と話しかけてくるが、ここ最近はそれがない。ストレッチから小言を述べてくる相手にこちらも負けじと言い返す、それがないのだ。
なので、今日は俺から誘ってみることにした。別に、跡部じゃなきゃダメなわけではない。ただ、調子が出ないのだ。やいのやいのと言い合いながら練習をしていた相手が、傍にいないから。

「跡部、」
「……んだよ、」

目当ての相手は、少し離れた場所にいた。悔しいことに何処にいても目立つ人間だから、すぐに見つけることが出来るのだ。
声を掛けると、硬い声で返事をされた。表情も、同じように硬い。

「し、仕方ないから、俺がお前のストレッチ相手になってやろう」

何故か、いつも跡部が掛けてくる誘い文句と同じ様な言い回しになってしまった。俺としたことが一生の不覚である。跡部と似たようなことしか言えないだなんて。
真っ直ぐに跡部を見つめる。アイスブルーの綺麗な目と一瞬視線がかち合ったが、すぐに逸らされてしまった。ツキンと何故か胸が痛んだ。視線を逸らされたからだろうか。しかめっ面をされたからだろうか。気不味そうな態度を取られたからだろうか。もしかしたら、全部当てはまるのかもしれない。

「……あー、やめとく、」
「……っ…」

まさか、断られるとは思いもしなかった。「アーン?真田のくせに言うじゃねーの」といつものように、横柄な口調で、不遜な態度で、偉そうに返されると思っていた。断られるだなんて、そんなこと予想もしていなかった。
思わず息を飲んでしまう。そのまま、呆然と立ち尽くしてしまった。何か、言い返さなくては。けれど、言葉が出てこない。
そんな俺を余所に、跡部は近くにいた白石に声を掛けた。

「オイ、白石。お前、俺の相手しろ」
「お、俺っ?別にえぇけど…、」

俺と跡部のやり取りを見ていたのであろう、白石が心配そうにこちらを伺っている。跡部は、そんな白石の腕を強引に引っ張ってその場を立ち去ろうとしている。その手を思わず掴んだのは、無意識のことだった。

「ま、待てっ」
「………」

振り返った跡部の顔は、眉を思いっきり潜めた渋いものだった。
何か、言わなければいけない。呼び止めたのだから。
この俺の誘いを断ったのだ。文句の一つをぶつけても良い筈だ。「いい度胸じゃないか。随分偉くなったもんだな、お前も」とか、いつも言っている類の言葉をぶつけても俺は悪くない筈なのだ。
しかし、俺の口から零れた言葉は何とも情けないものだった。

「……俺、何かお前にしたのか…?」

瞬間、グッと腕を強く掴まれた。他でもない、掴んだ相手は跡部だ。そのまま、引っ張られるようにしてコートの出口へ向かう。

「あ、跡部っ…!」
「………」

何も言わない相手は、だが物凄い剣幕で歩を進めていた。どうやら、俺はまた何か怒らせるようなことをしてしまったようだ。







連れて来られたのは、コートの裏の給水所だった。日陰になっているそこは、休憩時間以外に人があまり立ち寄らない。今はもう練習開始時間近いため、誰もいなかった。

「……跡部、」

掴んだ手がパッと離される。強く掴まれていたため、少し痛い。が、それ以上にもの寂しさを覚えた。何故、寂しく感じるのだろう。

「お前が悪い」

口火を切ったかと思えば、早々に俺を悪者扱い。跡部らしいと言えばらしいが。

「では、どこがどう俺が悪いのか、聞かせてもらおう」
「……断る」
「それでは、俺の気が収まらん。何故、俺を避ける?」

ハァとあからさまな溜め息を吐かれた。それに少し、胸が痛む。また、ツキツキと痛む。
余程、俺のことが邪険なようだ。いつの間にか、嫌われてしまったのか。

「……っ…」

そう気付いた瞬間、さらに胸にヅキヅキと痛みが走った。押しつぶされたように、胸が苦しい。息が出来ない。
何故、跡部に嫌われるのがこんなに苦しいのだろう。

「……俺のことが、嫌いなのか、」

俯き、そう問うた。吐き出された言葉は、錘をつけたように重苦しい。胸が、心臓が、締め付けられたかのように痛い。

「……は?」
「嫌いだから、避けるのだろう?」

ツンと鼻の奥が痛い。グッと唇を噛みしめる。そうしなければ、今にも涙が零れ落ちそうだ。
何で涙なんか出るのだろう。男のくせに情けない。

「ち、っげーよ!」
「……!!」

再び腕を取られる。グッと引き寄せられる。近くには、恐ろしく整った端正な顔立ち。切羽詰まったように、苦しそうな表情をしていた。

「お前のことが好きなんだよ、クソっ」
「……っ…」


乱暴に髪を掻き毟りながら、「……言わせんじゃねーよ、ったく…」ブツブツと文句を残してその場を立ち去ってしまった。

「………」

今、好きって言わなかったか?
誰が、誰を、好き…?

「……っっ」

その場に残された俺は、顔を真っ赤にすることしかできなかった。
一体この先、どんな顔してアイツと会えば良いんだ!

そして、満更でもない気持ちになっているのは、一体どうしてなんだ…!



FIN


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