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西住しほ「愛の挨拶」

 幼いころに聴いたピアノの音を覚えている。
 ピアノといっても、大仰なコンサートやパーティではなくて、実家のお屋敷で聴いたものである。
 私の実家はそれなりに大きな流派の家元だったから、庭師さんがいた。
 その庭師さんには私と同じくらいの息子がいて、口数の少ない私にもよく話しかけてくれる子だった。
 私の家には何故か大きくて立派なピアノがあったけれど、私も私のお母様もピアノを弾けない。生まれた時から戦車に乗ることだけを叩きこまれてきたのだ。
 そのピアノは大昔、西住の初代様が買ったものだという。初代様は戦場のピアニストと呼ばれていたとか、そんな話を聞いた。
 或る日、そのピアノが歌っていた。
 曲名なんて知らなかったけれど、優しくて暖かな旋律は少し退屈で、だけれども私はいたく気に入ってしまい、見にいったら庭師の子が演奏者である。
 あなたピアノなんて弾けたのと聞いたら君が居ない時はよく弾いてるんだと答えるので、私の前でだって弾けばいいじゃないと言えば上手くなってから聴かせたかったんだよとぶうたれている。
 私はその様子がおかしくて、「ねえ、もっと聴かせてよ」と頼んだら少しだけだぜと微笑んで演奏を続けてくれた。
 その時は本当に少しだけで、なぜかといえば私が戦車の練習に呼び出されてしまったからであるのだが、以後少年のピアノを眺めるのが私のお気に入りの時間となった。
「ねえ、最初に弾いてた曲はなんて言うのかしら」
「最初、君が最初にここに来た時のかい?」
「ええそうよ。ちゃーらら、らららら、らーらーら、という曲よ」
「ああそれは、愛の挨拶というんだ」
「愛の挨拶、いいわね。それがいいわ」
「また弾けってこと?」
「ええ。そうして頂戴」
 いつしか私は、その退屈な旋律を愛するようになった。退屈が情熱になり、優しさが愛おしさとなって私の中で燃え上がるのを感じた。
 唐突に私は彼の頬に口づけをした。これは今でも思い出すたびに恥ずかしくなることである。
 その時の彼の顔は覚えていない。というのも私が口づけをするなり逃げ出してしまったからだ。電撃戦にしてもお粗末なことである。
 その後のことは詳しく語らないが少年と私は一緒に育ち、学園艦時代離れ離れになりながらも文通をして、大人になってから再会し結婚した。
 私が暮らす屋敷には今でもピアノが鎮座している。我が子は二人とも音楽の才覚はなかったようで、偶に夫が掻き鳴らすのみである。
 夫婦揃って休める時などは、曲をリクエストすることがある。彼が弾いて、私はそれを聴き拍手をする。
 そんな時間が、たまらなく愛おしい。

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