ジャンル:ワールドトリガー お題:許せない船 制限時間:30分 読者:629 人 文字数:1680字 お気に入り:0人

菊地原が船酔いしているよ

ぼくは遠征艇が許せない。
当真先輩がぶつぶつぼやくように狭いのもあるし、冬島さんみたいに三半規管がぐらぐらするのもあるけれど、それ以外にも理由はある。
小さな丸窓から見える、暗く彩度の低い星空。
ぼくはこの光景があまり好きではない。窓の外から、何か呼ぶような声がしてくるようでならないから。
ぼくはできるだけ窓から目を背けて、探しびとの元へ歩いた。
この船ではいつでも焦燥感に襲われる。
太刀川隊の人たちは比較的のんきだし風間さんはいつも通りの冷静を保っているけど、ぼくはどうしても胸の奥から何かが訴えてくるような感じが止まらない。
もしかしたら、他の人たちもそうなのかもしれないけれど、それを見てとる事はできなかった。
早足で廊下を進む。この船は小さいのに、なんで彼の姿を見つけられないんだろう。
「どこにいるの」
思わず行先のない言葉が滑り落ちる。
どこにいるの。早くぼくを落ち着かせてよ。
自分の心臓がばくばく鳴るのが、痛いほど耳に響く。
遠征艇は嫌いだ。遠征の任務が嫌いなのかもしれない。近界ではなんだか気持ち悪い音をよく拾うから。
気持ち悪い音。
ぼくは手のひらに目を落とした。さっきまで武器を握っていた手。こびりついていた赤。
いやだ、あまり任務のことは考えたくない。頭をぶんぶんと振って、また廊下を進む。
いつもより廊下がやたら長く感じた。
船の外、近界の星がぼくを呼んでいる気がする。それはさっきまで聴いていたあの気持ち悪い音に似ていた。
何故か息切れがする。今はトリオン体なのに。眩暈がするような、頭の中を揺らされているような感覚。
トリオン体。そうだよ、トリオン体だよ。
トリオン体を切り裂くのなんてどうってことないんだ。だって次があるから。命を奪うわけじゃないから。
でもぼくはさっき何をした?
ぼくは――
「どこにいるの」
どこにいるの。お前も、ぼくも。
ここはどこだよ。全然知らない場所で知らないやつと戦って、挙句の果てにそいつを殺すぐらいに追い込んで、ぼくは何をやってるんだよ。いや、本当に殺してしまったかもしれない。
ここは狭い。こわい。外からはぼくを呼ぶ声がする。外に出してほしい。
遠征艇なんて大嫌いだ、近界民を殺すっていったって、これじゃ自分の心まで殺しているようなものじゃないか。
壁にずるずると体をあずける。なんだか立つのがつらい。そのまま座りこんだぼくは、目を閉じて顔を伏せた。
目を閉じた闇の中に、さっきの光景がフラッシュバックする。舞い散る赤いもの。耳元に響く仲間の声と、それ以外の音。迫ってくる敵。突き刺されたスコーピオン。
突き刺した感触。
耳の奥にいろんな音が渦巻く。船のモーターがぐるぐるとうなる音が頭に響く。うるさい、うるさい、こんな船にいつまでも乗っていられない。頭がくらくら、する。
ふと、耳慣れた音がした。
足音。
ぱっ、と顔をあげると、歌川がこっちに駆け寄ってくるのが見えた。
「おい、何でそんなところに座ってるんだよ」
大丈夫か、と彼の声が耳に響く。
「どこにいたの」
「どこって、お前こそどこにいたんだよ…さっきから様子おかしかったから探してたんだぞ」
「ああ、……そう」
耳鳴りがやまない。やっと歌川を見つけたのに。安心できると思ったのに。
歌川の手のひらが視界に入った。
さっきまでぼくと同じように武器を持っていた、血に濡れていた手のひら。
ぼくはその手をとり、ぺたん、と耳につけた。
「どうしたんだよ、」
疑問なんて聞かない。ぼくは目を閉じて歌川の手のひらの音だけを聴いた。
トリオンが血液のように彼の中を回っている。
「ぼくの中にもトリオンはまわってるの」
また言葉が滑り落ちる。
歌川は不思議そうな顔をすると、ぼくにしっかり目を合わせてこう言った。
「回ってるんじゃないか、この船のモーターを回してるみたいに」

ああ、ぼくはこの船が嫌いなのに。
なんて許せない船だろうか。

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