ジャンル:アイドリッシュセブン お題:裏切りの能力者 制限時間:4時間 読者:400 人 文字数:4133字 お気に入り:0人
[削除]

Egoistic romanticist

1回目。
「もう生きていたくない」
薄暗い一人暮らし用の小さなアパートの一室。カーペットの上に座り込んで、ユキさんはそう言った。ひいたカーテンの隙間から昼下がりの明かりが一条。床の上にはハサミに包丁、ドライバーからコルク抜きまで、荘厳な輝きを放って彼を取り囲んでいた。この家の中にある人を傷つけられるあらゆる刃物が、彼の白い首を抉るのを待ち望んでいる。
その時俺は、生まれて初めて人の死というものを目の当たりにした。小学校で飼っていたメダカが死んだ。中学校でほとんど会話をしたこともなく寝たきりだった母方の祖父が死んだ。高校の地元の駅で殺傷事件が起きた。そんな記憶はただの文字で、本当の人間の死からずっと遠くにあった。初めて見た人の死はあまりにも美しくて、だから俺は怖かった。
一生のお願いです。この人を連れて行かないで。
仕方がないなぁと神様が言ったのが聞こえた。その人はまだ早すぎるから、と。その代わり、お前に呪いを掛けてあげよう。
俺は花畑に踏み込む農家のように、その絵画のような情景に無遠慮に踏み込んで、そっとユキさんの肩に手を置いた。
「ユキさん、よく聞いて。それから俺の言葉を繰り返してください」
彼は俯いたまま、その言葉になんの反応も示さなかった。
「ユキさんはまだ、自殺なんかしちゃ駄目だ」
その言葉は彼に届かなかったように思えた。けれどもたっぷり時間をかけて、その言葉を含んだ空気は彼に重くのしかかり、薄い唇が震えた。
「僕はまだ、自殺なんかしちゃ駄目だ」
彼の腕に、冷たい金属の手枷を押し付ける。最初に右。最後に左。随分大層な音がした。細い腕にその大仰な輪は大分手余りだった。ユキさんは抵抗一つしない。落胆している刃物達を片付け始める。手枷をつけても、すぐ側にある自分の手首でも切られたらそれまでだ。
神様。俺は空に旅立とうとするこの人を小さな部屋に閉じ込めました。家族でも友人でもなんでもない赤の他人の俺が、この人の生を左右する権利なんてない。それでも生きていて欲しいだなんて、我儘だってわかっています。





103回目。
「無理だ、もう歌えないよ。だってここにはバンがいない」
中々起きてこないユキの様子を見に行くと、毛布に包まったまま部屋の隅で泣いていた。部屋と言っても、ここはあのアパートの一室ではない。おんぼろで、クーラーもなく、窓から見える景色もよくない。それでも夢みたいな六畳一間。ユキとの二人暮らし。
頭の中でカレンダーを捲って考えてみると、前回は隣町の工事現場のバイト前に慌ててかけたわけだから、つまり火曜日。今回は随分保ったなと思う。一緒に暮らし始めてすぐの頃は一日三回かけても間に合わなかったのだから。
「でもユキ、最近は曲も作り始めてたでしょ」
「もう無理だ」
「この前の曲、俺すごく好きだったよ」
「無理だ」
俺がいても?なんて大それた台詞を飲み込む。どうせ飾り気のない俺の言葉なんて届かないのだから、言うだけ無駄だ。時計を見ると、今日の出勤時間までは大分余裕がある。これなら大丈夫そうだ。
「ユキ、俺の目を見て、よく聞いて。それから繰り返して」
突然毛布を引き剥がされて、肩に手をおかれたユキは不審そうにこちらを見上げる。構うことない。
「ユキは歌わなきゃ。Re:valeを続けなきゃ。そうしないとバンさんも見つけられないよ」
彼の青い瞳が一瞬、毒々しいマゼンタを映す気がする。多分それは錯覚だ。でもその錯覚に俺は酔っている。
「僕は歌わないと。Re:valeを続けないと。そうしないとバンも見つけられない」
神様。俺はこの人の考えを捻じ曲げて無理に歌わせようとしています。ただのファンが聞きたいから歌い続けてくださいだなんて、横暴すぎる我儘だってわかっています。





627回目。
「皆、ありがとう!Re:valeでした!」
俺の挨拶を皮切りに、ドームをつんざくような歓声がステージを満たす。振られる蛍光色の軌跡が、瞬きの間も目の裏に焼き付いて離れない。
「モモ!」
呼ばれて振り向くと、ユキに腰を抱き寄せられた。歓声が色を帯びてまた音量を上げる。サッカーをやっていた頃から慣れ親しんだ汗の匂いが立ち上る。こういう時に、この人も男で生き物なんだなと思う。
そっと足元を伺うと、いつも通り白い細身のパンツには似合わない無骨な金属の枷が嵌っていた。そこから伸びた鎖は、ステージのマイクにしっかり結び付けられている。
もう一度ユキの顔を見上げる。視線があって、目尻にキスされた。また上がる悲鳴のような歓声。
神様。俺は結局この人を縛り付けて、時間と数字に囚われたこの世界から離してあげられません。この人自身も喜んでくれているだなんて、言い訳がましい我儘だってわかっています。





1100回目。
「今日、これだけのお客さんの前で歌えなかったら、俺、もう終わりだよね。」
こけら落としのコンサートまであと三時間。二人きりの廊下で静かにそう言った。
歌うための声が出ない。ユキには何も言っていないけれど、多分これは罰なんだと思う。自分の我儘でこの人を振り回した罰。
人魚姫になりたかった。でも俺は多分、魔法が解けたシンデレラだった。刻限が過ぎて魔法が解ければ、本当は何の取り柄もないただの凡庸な女の子だ。顔は多少よかったかもしれないけれど。
「そしたら、新しい相方探していいからね?」
「馬鹿なこと言うな」
優しい彼が、こんな提案に頷く訳がないとわかっていた。それでもその即答が、俺には酷く嬉しかった。けれどももう、決めている。ガラスの靴は置いていかないし、王子様は迎えに来なくていい。ユキの肩に手を掛けて、目を覗き込む。
「ユキ、復誦して」
「え?」
「俺が歌えなくなっても、次の相方を探して、ユキはずっと歌い続けてね」
泥々と濁る目。こちらの呪いはまだ解けていなくてよかった。けれどもこれが、きっと最後だ。
「モモが歌えなくなっても、次の相方を探して、僕は、ずっと、歌い続ける……?」
「うん」
神様。俺はこの人が歌い続けてくれるなら、声だって顔だって惜しくない。勝手にこんな世界に引っ張り上げて、最後に自分だけ舞踏会を降りるだなんて、無様で、無責任で、心の底から我儘だってわかっています。だけど最後にこれだけ。本当にこれだけ。お願いします、神様。





1101回目。
「引っ越したいな」
何の前触れもなくユキがそう言った。
波乱万丈のこけら落としも何とか成功に終わり、仕事のリズムもようやっと落ち着きを取り戻したある日のことだった。仕事帰りに、久々に飲んでいかないかと誘われて、高層マンション最上階のユキの家に上がる。チリワインのライトボディ。おつまみは珍しくストックがなかったので、ちぐはぐだけれど下のコンビニのチーかま。つまり全く重要な話をする空気なんかじゃない。
「作曲活動に集中したいんだよね」
「どうしたの急に。別に引っ越さなくてもいいじゃない」
貧乏暮らしをしていたあの頃の家を引き払って以来、ユキはもう四年程ここに住み続けていた。
「そうなんだけど、この部屋、隣が空きじゃなくなっちゃったから」
作曲活動をするのに隣人に気を使う、ということだろうか。
「ここの防音対策、結構しっかりしてなかったっけ。それで選んだんじゃなかった?」
ユキはちょっと困ったように笑った。
「モモはよく引っ越すよね」
俺は特に何の理由があるわけでもないけれど、一年に一回程度の頻度で引っ越しを繰り返している。新しい街に住むのは楽しい。一年も住むとその街に飽きるとも言う。
「僕、ずっと待ってるんだよ」
ユキが小さく呟いたけれど、ゆっくりアルコールが回り始めた俺は、発言の意図がわからずに聞き流してしまった。
「できれば芸能活動も、しばらく縮小できないかな」
弛緩していた心臓が、きゅっと止まるかと思った。
Re:valeの作詞作曲はユキの担当で、俺には正直才能がない。それでもユキは必ず作詞作のクレジットをRe:valeの名義にする。ユキの名前にすればいいと何度も主張しているけれど、これに関してユキは絶対に譲らないと宣言している。しかしながら実際の所、作詞作曲に集中するのはユキ一人で十分であり、俺は活動を続けるべきなんだろう。
元々俺達は別々の仕事が多くて、最近では俺がバラエティ。ユキは俳優業。ミュージシャンとしての活動を知らない人には、そもそもどうして組んでいるのだとよく聞かれる。事情を知らない人間に何を言われても構わないとユキは言うけれど、こんな状況で片方が活動を縮小なんてしたらどうなるだろう。解散の二文字が頭の中でゆっくり点灯する。早急すぎだ。考えすぎだ。わかっている。酔っているんだ。
ワイングラスの首をつまんだユキの右腕をそろそろとさする。何?と聞かれるけれど、構わずそのまま、白い腕に手枷を嵌め込んでみる。鎖を伸ばして、もう片方は俺の左腕に。この手錠も五年で随分ぼろぼろになった。表面に錆が浮いていて、見えていないにしてもこんなものを着けさせるのも申し訳なくなってしまう。
神様。歌い続けてくれるならなんだってするって言ったのに、それ以上を望んでしまってごめんなさい。俺じゃこの人の隣にいるのに十分じゃない。我儘だってわかっています。
神様。この我儘はきっと聞いてもらえない。俺はもういいんです。





「モモ、寝ちゃったの?」
机に突っ伏したまま、相方の髪をそっと掻き回す。白と黒の境界をみつけて、頭皮を丁寧になぞってみても起きる気配はない。先細右腕に嵌められた手錠が静かに関節までずれ落ちて、橙の鉄粉がテーブルに落ちる。
「見えていないと思ってた?」
この鎖が死の淵に立っていた自分を引っ張り上げてくれたこと。歌にもう一度命を吹き込んでくれたこと。正直柄じゃない、アイドルなんて職業を一緒に続けてくれたこと。それからずっと隣にいてくれたこと。全部知ってる。
「監禁して洗脳して、言うこと聞かせたいんだっけ」
蹲る後頭部にそっと頬をすり寄せた。
「ねぇ、いじらしいじゃないか」

同じジャンルの似た条件の即興二次小説


ユーザーアイコン
作者:まき ジャンル:アイドリッシュセブン お題:限りなく透明に近い部屋 制限時間:30分 読者:62 人 文字数:1199字 お気に入り:0人
「えー!コラボ!?」驚きの声が各所で上がる。番組の企画ではなく、コラボなんて初めての事だ。その驚きには当然、喜びも含まれている。「したら、リスポん時みてーにミツ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まき ジャンル:アイドリッシュセブン お題:許されざる汗 制限時間:30分 読者:45 人 文字数:1347字 お気に入り:0人
恐れを知らないってことは、本当に怖いことだ。そんな当然のことにすら気づかないまま、日々を過ごしていた。ある日目の前にドンと置かれた恐怖に、立ちすくむまでは。「さ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まき ジャンル:アイドリッシュセブン お題:日本略奪 制限時間:30分 読者:48 人 文字数:1388字 お気に入り:0人
こんなに、魅力的なものをいくつも持っていながら、ひけらかすこともせず、ただ自然にあろうとする。それを捻じ曲げてしまったことを知っているから、後ろめたさがあった。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まき ジャンル:アイドリッシュセブン お題:真実の豪雪 制限時間:30分 読者:46 人 文字数:1485字 お気に入り:0人
幼い頃の、希望の光。きらきらと光っていたのは、憧れの思い。そして、輝かせてくれたのは。「…えへへ。」「どうしたの、いきなり。」「いや、つい。嬉しくって。」オレの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まき ジャンル:アイドリッシュセブン お題:スポーツの場所 制限時間:30分 読者:43 人 文字数:1452字 お気に入り:0人
気づけばいつも、身体を縮こませて、自分を小さくしていた気がする。僕の色々な後ろめたさがそうさせるのだろうけれど。でも、それではいけないと、奮い立たせてくれたのは 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まき ジャンル:アイドリッシュセブン お題:禁断のお尻 制限時間:30分 読者:50 人 文字数:1672字 お気に入り:0人
人より劣っている、と思っていたから。全力で取り組んだし、それを言い訳にしたくなかった。だから、それは今でも変えちゃいけないスタンスだと思うし、全力で、一生懸命頑 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まき ジャンル:アイドリッシュセブン お題:真紅の怒りをまといし小説トレーニング 制限時間:30分 読者:46 人 文字数:1572字 お気に入り:0人
いい加減に見えて、その実、誰よりも人のことを見ている。それは当初、自己防衛のためだったのかもしれないけれど、今となっては、あの人の最大の武器になっているのかもし 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まき ジャンル:アイドリッシュセブン お題:トカゲの儀式 制限時間:30分 読者:44 人 文字数:1341字 お気に入り:0人
きっとこの人は、恵まれていたんだろうと、勝手に思っていた。オレは、そういう人が羨ましくて、それから、自分を振り返って悔しくて。何も知らないってことは、自分を嫌な 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まき ジャンル:アイドリッシュセブン お題:最後の真実 制限時間:30分 読者:47 人 文字数:1707字 お気に入り:0人
どうしても、隠しておきたいこともある。それは、何のためなんだろうか。誰かのためと嘘をついた、自分のために。「一織くん、それは。」「っ、何でもない、ですから。」「 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まき ジャンル:アイドリッシュセブン お題:部屋とYシャツと錬金術 制限時間:30分 読者:50 人 文字数:1540字 お気に入り:0人
「なにこれ。」俺の部屋に入ってきた相手の第一声はこれだった。そんでもって、次の瞬間すっげー眉間にしわを寄せて、大声を出そうと思ってとどまって、噛み締めるようなし 〈続きを読む〉

匿名さんの即興 二次小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:スタンドマイヒーローズ お題:誰かと奈落 制限時間:30分 読者:3 人 文字数:1126字 お気に入り:0人
誰かと奈落に落ちるなら。そんな例え話を聞いたのは先日の外務省関連の飲み会だったろうか。奈落といえば仏教における地獄だ。地獄ということは大いなる罪悪を犯した者が、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:グランブルーファンタジー お題:今度のお天気雨 必須要素:ゴルゴンゾーラ 制限時間:15分 読者:6 人 文字数:535字 お気に入り:0人
「あらー」上空から降ってきた雨を見もしないで、仲間と逸れた特異点は、地面と水滴が響かせる雨音を聞きながら、葉が零してしとどになった髪を後ろに流して、しまったなと 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:スタンドマイヒーローズ お題:帝王の誤解 制限時間:30分 読者:8 人 文字数:1192字 お気に入り:0人
「ほ~ん。それで?マトリちゃんは何をご所望なの?」ぐいっと近寄られると、端正な顔立ちと射抜くような瞳にがんじがらめにされているように動けなくなる。「えっと、です 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:名探偵コナン お題:12月の勝利 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:784字 お気に入り:0人
昔ある脱出系バラエティ番組でこのような暗号を見たことがある。色のついたコードが何本かあり、暗号を解いて正解のコードを切れば外に出れるというものだった。『12月 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:名探偵コナン お題:地獄のにおい 制限時間:15分 読者:9 人 文字数:610字 お気に入り:0人
あなたはドリアンという果物を知っていますか。ドリアンとは30cmほどの周りがとげとげした薄い緑色の果物です。面白いことにドリアンを飛行機には持ち込むことができ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:名探偵コナン お題:美しい軽犯罪 制限時間:15分 読者:12 人 文字数:462字 お気に入り:0人
最近、学校帰りの道にある喫茶ポアロにイケメン店員がいると友達が耳元で騒いでうるさい。「ホントのホントにかっこいいの」と友達は鼻息を荒くして妄想モードに入る。まぁ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:ギャグマンガ日和 お題:安全な妻 制限時間:4時間 読者:8 人 文字数:1068字 お気に入り:0人
この時代に生まれた事、心底呪っている。子供を増やせ増やせと。徳川の貴重な跡継ぎがどうとかこうとかと。腹が立つ。何なんだ。何も知らぬ癖して。別に私は好きでこの立場 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:スタンドマイヒーローズ お題:愛と憎しみの螺旋 制限時間:30分 読者:10 人 文字数:1242字 お気に入り:0人
「私を内偵に行かせてください」関のデスクの前で、声を荒げた玲に捜査企画課の全員が振り返る。また無茶を、という視線。よくやるな、という視線。そういうものがあっても 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
flight ※未完
作者:匿名さん ジャンル:スタンドマイヒーローズ お題:かたい笑顔 制限時間:30分 読者:12 人 文字数:996字 お気に入り:0人
もう何度目かのデートがお預けになって、さらには出張のおまけ付きと言えば、さすがに書類をぶん投げたくもなる。文句の言い過ぎでミサキちゃんにも呆れられた。「出張、で 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:ワールドトリガー お題:恋の行動 制限時間:4時間 読者:11 人 文字数:286字 お気に入り:0人
恋、とは。今まで興味もなく、まさか自分がするとは思っていなかった。それは数日前。本当に、ちょっとしたきっかけだった。幼馴染の千佳に、恋をする日が来ようとは。でも 〈続きを読む〉