ジャンル:刀剣乱舞 刀さに お題:男同士の作家デビュー 制限時間:30分 読者:538 人 文字数:2065字 お気に入り:0人

駄目官能小説家、鶴丸国永


 何が楽しくて、官能小説家がサシで飲まなければいけないのか。
 詰まってもうネタが出ない、とごねたら編集が、じゃあ同期の作家さんと食事でもしませんか、と誘ってきたのだ。
 ところが編集は急ぎの仕事が増えたと言って、私をおいて去ってしまった。
 ただでさえ人付き合いが苦手で、後ろめたいことしかないのに、やめていただきたい。
 帰りたい。
 帰ろうか。
 焼肉屋の奥で、そわそわと一人挙動不審にしていると、ぽん、と肩を叩かれた。

 「やぁ、君か同業者――って」

 ぶかぶかのコートをはおり、眼鏡の青年が私をみて、目をまるめた。
 私は、もう少し早く帰ってしまえばよかった、と血の気が引いていくのが分かった。

 「これは驚きだぜ」

 やぼったい見た目に反して、ひょろりと細い青年は輝くような笑顔をみせた。
 よく見ると、けっこうイケメンだ。ああ、帰りたい。

 「なんだ君、女だったのか」


 *


 網目に、肉の油がしたたり落ちていく。
 すみに乗った牛タンをひっくり返し、国永さんの皿にのせる。

 「なんだ、同期で男同士のデビューだと思ってたのになぁ」
 「あの、すみません」
 「謝ることはないだろう。隠してたのか!」
 「編集さん以外は、その、知りません」
 「なるほどなぁ。いやはや、新進気鋭の官能小説家が、まさかこんな年若い女性だとはな。恐れ入ったぜ」
 「はぁ……」

 ぼさぼさの頭に、毛玉ができかけたセーター。
 見た目の野暮ったさに反して、五条国永――もとい本名、鶴丸国永はとても饒舌だった。
 そして私は、男性作家のふりをして、デビューを果たした官能小説家だった。
 実際のところペンネームがごついので、男性作家だと思われているだけだが。

 「燭台切はこないのか」
 「なんか急ぎの仕事とかで、どうしても駄目だって言ってました」
 「席を用意した奴が来ないってのはどうなんだ」

 国永さんはよくしゃべり、そしてよく飲んだ。
 同業者という事で、つい話に付き合ってしまい、結局帰る、とは言えずわたしもちびちびと飲み進めていた。
 そうして、気付いたら閉店の時間になっていた。

 「国永さん、もうお店閉まるそうですよ」
 「なんだ、早いな。せっかくだからあれだ、もう一軒いこう」
 「立ててないじゃないですか、帰りましょう」
 「……」
 「国永さん?」
 「困った、立てない」

 タクシー呼んでくれ、悪いな、と国永さんはわらった。
 これだから酔っ払いは嫌いなのだ。
 結局国永さんはタクシーでもごねて、私をのせて、そうして降りる時もごねて、私は結局国永さんの家までついていくことになったのだった。

 「案外、きれいなマンションなんですね……」
 「親父の金さ。はは、とりあえず水でも飲もうじゃないか」
 「あの私が用意するので、座っててください」

 支えないと歩けないほど酔っていた人を、ソファに座らせ、水をとりに台所に向かう。
 しかし、初対面の相手にわたしは一体なにをしているのだろう。
 名前くらいしか知らなかったけど。
 いや、作品も読んだことはあった。
 同時デビューだったから、気になっていたのだ。
 どぎついのも書くのかと思っていたら、すごく繊細で、響くような話を書くなと思って、少し憧れていたのに。
 ――なんか、イメージと違ったな。
 黙っていたら、それらしかったかもしれないけど。
 コップを両手に、居間に入った。
 すっかりソファーベッドで倒れこんでいる。

 「国永さん、お水、飲めますか」
 「のめる、のめる」
 「どうしてそんなに飲んじゃったんですか」

 手だけがふらふらとしているのに、コップを握らせてやる。
 熱を出した子供のように、国永さんはふちに唇をつけながら、水をなめる。

 「……だって、そりゃ、男だと思ったのに、若い女の子がくると、思わなかったから」
 「はあ」
 「緊張して、つい、飲みすぎたんだ」

 くてん、と彼のほそく白い首がうつむいた。
 突き返されたコップをうけとりながら、はぁ、と私は素っ頓狂な声をあげた。

 「え、国永さん、童貞ですか」
 「やめろ、いや、そんなわけないだろう経験くらいはある」
 「……素人童貞?」
 「やかましいな、君はどうなんだ、経験あるのか、ばりばりか」

 キャリアウーマンみたいな言い方やめてもらえますか、と冷静に返しながら、酒ではなく耳まで真っ赤になった、この同期の青年をまじまじと見つめた。
 あんなにいやらしい文章書くのに、この人、女に全く慣れていないのだ。

 「ないんだろう、ないんだろう……」
 「いや、人に誇れるほどはないです、けど、」
 「どうせだから俺と寝よう、もう妄想だけじゃネタに詰まってるんだ、頼む、このとおり」

 酔っているとはいえ、これほど情けない男の姿は見たくなかった。
 半べそになりながら、国永さんは私の手をにぎり、な、と頷いて見せた。
 な、じゃない。

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