ジャンル:銀魂 お題:当たり前の子犬 制限時間:15分 読者:224 人 文字数:2235字 お気に入り:0人

アイネ・クライネ・ナハトムジーク



差し伸べた手を掴んでほしいと思っていた。
全部託すから、全部託してほしかった。

『見てられないから、夜中目が覚めないようにするしかないアル』
『…そんなにひどいの』
ぽつんと落ちた言葉に、神楽ちゃんがぐっと唇を噛みしめて顔を歪める。
『何を見てるかなんて、私たちには想像できないネ。それが何であっても、あれは銀ちゃんだけのものアル。でも…』
ぎりぎりと音を立てて、噛み砕かれていくままならなさを見つめる。
続けたい言葉の先なら、僕にも分かった。
続かない言葉の先なら。

人生で一番といってもいいくらいの、大きな頼まれものを背負って、後ろにも横にも視線をそらさずに前だけ見て戦場を駆ける。
退路を守って振り向かない三人の背中と、まるで何年も同じところで戦ってきたように即席で息を合わせる四人の姿を胸の内に描く。
そこにある絶対的な安心感と、静かだが確かな信頼、同じ喪失感と絶望を別々に抱えるさみしさげ全部ごちゃまぜになって形成された切れない糸を、遠く、長く繋ぐように前を見る。
(離さないぞ。絶対に、この手を離さないんだ)
ささいな日々でも、大きな夢でも、僕らは、もう二度と取り戻せないものを知っている、だからこそ手を伸ばすことを諦めたらいけないことも分かっている。
頭の中で、あの日の神楽ちゃんが噛み砕いたままならなさを飲み込んで口元を歪ませる。わるい夢に苦しむ寝顔と、陽の下で笑う間抜け面が鏡の表裏に写ってくるくると回る。
「新八、お前確か私より先に銀ちゃんに出会ってたアルな」
「え?うん、数話の話だけど、僕たち二人だったよ」
「数話じゃ意味ないネ。もうちょっと昔を知ってる奴いないアルか」
「銀さんの昔?うーん、お登勢さんなら知ってるんじゃない?自分ちの二階に住まわせてるくらいだし。ていうか、どうしたの、突然そんなこと言い出して」
掃除機をかける手を止めて、ソファーに寝転がっている彼女を覗き込む。めずらしく神妙な顔つきで瞳を翳らせた神楽ちゃんは、銀ちゃんが、たまにすごくうるさくて、と呟いた。
「うるさい?」
「夢見てるみたいアル」
「うなされてるってこと?」
僕の言葉に、神楽ちゃんの顔が形容しがたい形に歪む。僕は少しヒヤリとしながら、黙ってその顔を見下ろしていた。
「…一回だけ、気になって覗きに行ったことあるけど、…見ちゃいけないものを見てる気分だったネ。しばらく動けなくて…それからは、もう見てないアル」
「…何か言ってた?」
神楽ちゃんがふるふると力なく首を振る。ひたすら苦しそうにしてるだけアル、と告げる声が暗い。住み込みでない僕では知り得ないことだけど、それはきっと僕なんかでは想像の及ばないくらいかなしい光景に違いないのだろうと思った。
見てられないネ、と暗い声が言葉を続ける。
「見てられないから、夜中目が覚めないようにするしかないアル」
「…そんなにひどいの」
ぽつんと落ちた言葉に、神楽ちゃんがぐっと唇を噛みしめて顔を歪める。
「何を見てるかなんて、私たちには想像できないネ。それが何であっても、あれは銀ちゃんだけのものアル。でも…」
ぎりぎりと音を立てて、噛み砕かれていくままならなさを見つめる。
続けたい言葉の先なら、僕にも分かった。
続かない言葉の先なら。
「でも…………」
途切れた言葉の先を二人で見つめる。
(僕らはまだ、それに触れられない。抱えられてるだけじゃ、そこへは行けない)
(でも、手を伸ばし続けることは、諦めたくない。一緒にいることを諦めたくない。いつか)
定春が目を覚まして、神楽ちゃんが静かに起き上がる。僕は掃除機のスイッチを入れる。玄関の戸が開いて、気怠げな声が帰宅を告げる。
おかえりなさい、と笑いながら、僕は掃除機の持ち手をぎゅっと握りしめた。

いつか、本当の意味で隣に立ちたい。背中に背負って走りたい。
差し伸べた手を、掴んでもらいたい。

吐いた弱音も、薄暗い過去も、正面から見つめた後で、笑いたい。力強く、大声を出して。
未来に希望を照らすように笑いたい。
いつか。


定春に乗って隣を走りながら、過去とともに駆ける横顔に手を伸ばす。
血や泥で汚れた顔をまっすぐに見つめながら、僕は思っていた。
戦い続けたわるい夢、一人でいた時間、憶測では計り知れない長い過去に、僕らは光となって辿れるようになっただろうか。
僕はこの人の隣に立てているだろうか。
彼女を探して走るに値する侍になれただろうか。
この手は今、僕の思うように、願ったように力強く、信頼を込めて差し伸べられているだろうか。
(分かんないな。まだ。全然分からないや)
それでも、ともに行きたい気持ちはずっと変わらないままだった。それだけを純粋に思いながら、指先を伸ばす。
ぐ、っと力を込めて掴まれた手を引き上げる。体感する重さを噛みしめながら、僕はひたすらに前だけを見た。
暗雲も不安も少しも晴れていない曇り空が、明けた空など想像もつかないような夜が、そこにはまた広がっている。
でも、背中にある体温が、うしろに残してきた希望が、走る先にある未来が、ずっと朝焼けの光をぼんやりとでものぞかせている。夜明けはそこだとささやいている。
僕らが向かっているのはそこだ。
掴まれた手を決して離さず、あいた片手を埋めるために指先を必死に伸ばす。
その手で、手と手を繋ぐために。わるい夢に苦しむ夜を、越えようと手を繋ぎ渡っていけるように。

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