ジャンル:最遊記外伝 お題:ぐちゃぐちゃの夏休み 制限時間:1時間 読者:43 人 文字数:2409字 お気に入り:0人
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ぐちゃぐちゃの夏休み

「あっぢぃ」
捲簾は真っ黒い軍服の前をバタバタとはためかせ、心底辟易したとばかりの低いうなり声をあげた。照りつける容赦のない日差しは漆黒の軍服にこれでもかと熱を吸わせ、その内を一人用サウナの如くに蒸し上げている。
「炎天下目一杯走り回っていただいてお疲れ様でした。もうこちらの封印も済みましたので、降りてきていいですよ」
岩陰から掛けられた天蓬の声に、やっと解放されたとばかりの安堵の表情を浮かべた捲簾は、半ば飛び降りるように巨獣の背から地上へと帰還した。このくらいの高さはまだ彼にとって高所のうちには入らないらしい。一般的には十分怪我をしそうな高さに見えたが、その辺りの基準はまだ天蓬にもよくわからなかった。
「なーんでお前さんはそんな涼しげな顔してられんのよ。同じ服着てんのに。つか、俺よりまだ一枚多いくせに」
素肌に軍服を羽織っただけの捲簾は、きっちりセットした髪型が崩れるほどの汗だくである。それとは対照的に中にはちゃんとシャツを着込んで、軍服の前も首元まできちんと止めた天蓬の方は汗ひとつかかず…とまでは行かないものの、ずっと捲簾より涼しげな顔をしている。
「出来るだけ日陰を選んで動きましたからねえ。乾燥地帯ですから、直射日光さえ浴びなければ、何とかなりますよ」
タネを明かせば簡単な話だ。今回捲簾は岩の上などの高い位置から標的を探り、突撃する役目。対して天蓬は、岩陰に潜み捲簾が見つけた標的を影から包囲し封印結界に追い込む役目。どちらも重要な役回りだが、圧倒的に前者の方が日差しを浴びやすいのは自明である。高所には遮るものなど何もないのだから。
「お前さ、ワザと?」
「人聞きの悪い。適切な役割分担でしたよ。おかげでほら、予定よりずっと早く仕留められたじゃあないですか」
いけしゃあしゃあと言ってのける天蓬の言葉は大方正しい。が、全部が本当とも限らない。だらりと垂れた前髪の合間からジト目で睨むと、誤魔化すように彼が口笛を吹いた。ああ、やっぱり。
「さあ、そんなことよりさっさと片付けてしまいましょう。これが終われば、予定日数の残りは自由行動にしますからね」
インカム越しに天蓬がそう告げた瞬間、あちらこちらから隊員の歓声が上がる。自習を命じられた学生か。呆れ混じりの言葉を吐きながら、しかし捲簾自身も与えられた自由時間がもう待ち遠しくて待ち遠しくて仕方ないのであった。



「で。だ」
「で、何でしょう?」
後始末を済ませ、天界への定時連絡を通信班に任せて、それぞれ事後処理と言う名の自由行動に隊員たちが散っていった後。
西方軍第一小隊のトップ二人は、未だ街に繰り出すでももちろん天界へ帰還するでもなく、人影のない岩場の裂け目に寝そべっていた。
小さな洞窟、と言うには狭い。人二人も横たわれば埋まるほどの空間。幸い外に比べてひんやりとはしているが、お世辞にも居心地がいいとは言えない固い地面。
ざり、と軍服越しに砂と小石が擦れる音がする。と言うか、結構痛い。
「そんなに時間は掛けませんよ。精々、貴方のその汗が引くくらいまでですかね」
寝そべった、もとい押し倒した捲簾の腹の上にまたがった天蓬がうすら笑みを浮かべてあっさりと言い放つ。やや汗に湿った髪がはらりとその頬にかかる様は、何とも壮絶な色気を放っていた。
(あーくそ、ヤる気満々でいらっしゃること)
こんな時の天蓬は厄介だ。絶対に引かないし、そうでなくともここでやめさせることができない。なにせ本当に、とんでもない顔をしているのだ。
「汗が引くくらいとか言っちゃって。どうせ引かせる気もないくせに」
「おや、ご明察。分かってるならさっさと覚悟決めてくださいね」
汗でぐしゃぐしゃになったままの捲簾の髪に指を差し入れて、天蓬はうっとりと笑む。そのまま汗ばんだ地肌を撫でるように後頭部へと滑らせると、上体を彼の身体の上へ倒れ込ませた。ぶつかりそうなほどに近づく顔と顔。捲簾がその眼鏡をそっと退けてやると、笑みの形をつくったままの唇が食らいつくように捲簾のそこへむしゃぶりついた。
「ん…っ、……ふ…」
「……は…ッ、あつ……」
いつもは自分より体温の低い天蓬の身体が、唇が、やけに熱い。手のひらで頬を撫ぜて、目尻を親指で何度か拭うようにくすぐると、息を切らせて唇を離した天蓬がそっとこめかみの辺りに鼻を擦り付ける。
「貴方の匂いが、あんまり濃いから」
汗と砂と、硝煙。そして僅かな、血の香り。
噎せ返る程の男の、捲簾の匂いを目一杯吸い込んで、天蓬の瞳はとろりと蕩けた。
「そう仕向けたのはお前さんだろーが」
くしゃくしゃと相変わらず風呂にご無沙汰な長い髪を掻き回してやれば、悪戯のバレた子供のような無邪気な笑みが耳朶をくすぐる。
「ふふ…やっぱり、バレてましたか」
「わからいでか。……そんなに溜まってた?」
意地悪に低く囁いてやれば、腹にまたがった腰が甘く震えた。普段ならこんなからかいにはもう少し突っかかるだろうに、どうにも今日は余裕がない。図星なのだろう。
「ええ、そりゃもう。このところ、忙しかったですからねえ」
「道理で素直通り越して情熱的なわけだ。……イイぜ、気の済むまで付き合ってやるよ」
軽くからかうように腰を突き上げてやれば、まだ何も始まっていない身体が身悶えるように捩られる。ついでとばかりに耳元で甘い甘い吐息をこぼした、それは捲簾に対しての挑発だろう。
「偉そうなことを言って、貴方だって……そろそろ我慢の限界のくせに」
ご無沙汰はお互い様でしょうと、そこを布越しに擦り合わせれば、未だ体力の有り余る男のそこも正直な反応を返し始めた。
「誰もいないし、仕事も終わり。ちょっとした夏休みと言ったところですから……ねえ、捲簾」
遠慮なく、ぐちゃぐちゃになりましょう?
その言葉を皮切りに、二人の理性はしばしの暇を乞うこととなった。

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