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宣戦布告(ジロひよ)


※ジロひよ


 芥川さんはたんぽぽのような人だ。
 こうして春のあたたかな日を浴びて、草間に紛れるように眠っている姿を見ると特にそう感じる。周りに咲いているたんぽぽも、芥川さんを自分たちの仲間だと認識しているのではないかという錯覚まで起きるほどに、寝転ぶ彼はその風景に馴染んでいた。
 部活中にも関わらず、またふらりと消えた芥川さんを連れ戻して来いと跡部部長から言い渡され、あちこち探し回った俺の苦労など知る由もなく、気持ちよさそうに寝息を立てている。あまりののんきさに怒る気力も失せてしまう。

 ひとつ、大きく強い南風が吹いた。旅立ちのときを待ってきた綿毛が、その風に乗って上空へ舞い上がる。
 空を舞い踊る綿毛を眺めながら、ふと、昔に聞いたたんぽぽと南風の物語を思い出した。


 ある春の日、なまけ者の南風は、野原にたたずむ黄色い髪の美少女を見つけ、恋に落ちた。
 その少女の正体は、たんぽぽ。しかし、それに気づかない南風は、毎日夢中で少女を見つめ続ける。
 いつしかたんぽぽが綿毛へと姿を変えると、少女も白髪の老婆になってしまった。
 南風が悲しみのあまり大きなため息をつくと、それに飛ばされて、白髪の老婆もいなくなってしまった。


 いまの風は、失恋した南風がついたため息かもしれない。
 俺はもう一度、芥川さんに視線を落とす。たんぽぽを少女と見間違えるような南風だ、芥川さんのことも見間違えてうっかり恋に落ちてしまうかもしれない。
「だめだからな、この人は俺のたんぽぽだ」
 南風に宣戦布告してから、俺は芥川さんを揺り起こした。


20170702

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