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十二日目:ヘッドホン越しのロック


 CDショップの洋楽のコーナー。純哉は綺麗に並べられているCDジャケットたちを鼻歌交じりに眺めていた。このCDショップの洋楽コーナーは他の店に比べてラインナップが充実していて、時々やってきて新曲を探すのが純哉のささやかな楽しみだった。
「あっ、このアーティストって」
 その中で見たことのあるアーティストの写真を見つけて、純哉はCDを手に取った。イギリスのロックバンドで、以前勧められて聞いてみたら純哉の好みの曲を歌っていた。それから時折聞くようになっていたが、今純哉が手にしているのは彼らのフルアルバムだった。
「へー、聞いたことない曲もある……試聴できるかな」
 あたりを見ると、ちょうどそのフルアルバムの試聴ができるスペースがあった。純哉がその試聴スペースのヘッドホンに手を伸ばすと、先に誰かがヘッドホンを掴んだ。
「あっ」
「あ?」
 純哉が思わず声を漏らすと、威嚇するような低い声が聞こえた。聞き慣れた低音に、純哉は視線をヘッドホンを掴んでいる人物の顔面に向ける。
「……黒石くん?」
「あ?」
 そこにいたのは勇人。純哉の驚いたような顔を見ても動じた様子も見せず、気だるげな視線を送っていた。
「佐々木か」
「お疲れさま……黒石くんも、このバンドのアルバム買いに来たの?」
「ああ」
 そう言って、勇人は何のためらいもなくヘッドホンをつけた。つけるのかよ、と純哉は小さくツッコミを入れ、それからしばらくは聞けないだろうと思って試聴スペースから離れようとした。
「佐々木」
 呼び止められて、純哉は「はい?」と振り向く。勇人はヘッドホンを外して純哉に差し出していた。
「五番の曲、いいぜ」
 にや、と笑いながら言う勇人に、純哉はまた目を丸くさせる。けれど、その笑みの意図を理解した純哉はヘッドホンを受け取って勇人が言ったCD五番目の曲を試聴した。聞こえてくるベースの低音と鼓動を打ち鳴らすかのようなドラム、そして激しく掻き鳴らされるギター。アーティストの美声とはいいがたい、叫ぶようにぶつけられる歌声。
 純哉にこのアーティストを勧めてくれたのは勇人だった。最初は聞いたこともないアーティスト、それも洋ロックなんてあまり手を出したことのないジャンルを勧められて驚いたものの、聞いてみたら純哉の好みのど真ん中だった。今回の曲も、勇人なりに純哉の好みを把握して勧めてくれたのだろう――などというのはさすがに考えすぎだろうか。そんなことを思いながら、純哉はヘッドホンを外した。
「ありがとう、黒石くん。すごくいい曲……」
 と言っている間に、勇人の姿はどこかに消えていた。自由かよ、と思いながら純哉は小さくため息をついて、アルバムを手にしてレジに向かった。

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