ジャンル:遊戯王ZEXAL お題:ゆるふわ愛され死 制限時間:1時間 読者:62 人 文字数:4319字 お気に入り:0人

【ベク遊】ダブルヒロイン・ノックアウト

※女装ネタ

「やだやだやだやだ、お、おんなのこの格好なんか、ぼく、できません!」
顔をゆでダコみたいに真っ赤にして、真月はいつになく強情に言い張った。みんなで、文化祭の劇の配役を決めていた時のことである。
「やだっていってもなあ、これ、クジで決めたし」
「いいかげん諦めニャさいって」
「やだぁ、できないよう、だってぼくおとこのこだもん。ほかの男子はみんな普通の役なのに!」
題目はシンデレラ。クラスの配役は公平かつ民主的な方法で、と委員長が言ったので、性別関係なしに全員クジを引くことになった。もとよりコスプレ喫茶などがまかりとおるハートランド学園中等部である。女装も男装も誰も気にしていなかった。真月以外は。
「いいじゃない、真月くんきっと似合うわよ。よく見れば真月くんて結構可愛いし」
小鳥の励ますような言葉に、周りの女子がうんうんと頷いた。真月ってこれで結構女子に人気なんだ、ふーん。と遊馬は若干つまらない気持ちになったりしたのだけどそれはどうでもいい。
「そうですよ真月くん、衣装係もがんばってかわいいドレス作りますから、とどのつまりは受け入れてください!」
「うわあああん、そんなこと言ったって嫌なものは嫌です! 遊馬くん、助けてくださいよぅ」
うるうると捨て犬顔負けの上目遣いで真月は遊馬に助けを求めた。だが助けてと言われても、決まったものは変えられない。一人が変えれば僕も私もと始まってしまうかもしれない。
「うーん、そういわれてもなあ。俺、たんなるネズミの役だし……」
「じゃあ! 遊馬くんも女装するなら僕もやります! それでいいでしょう!?」
「はああ!?」
何を言いだすかと思えば、恥ずかしさのあまりおかしくなったのだろうか。だいいち遊馬は単なるネズミなのだから女装もなにもない。よくて色布をかぶる程度だ。それをーー
「ああ、それで真月の気がすむなら、いいんじゃないか?」
「遊馬の女装……キャットかわいいわ!」
「お、お前らぁ!? 何言ってんだよ!俺はネズミだぞ!?」
だが、台本係の徳之助が自信たっぷりに言った。
「大丈夫ウラ! 普通の台本じゃ物足りないと思ってたからちょうどいいウラ。オレがはりきって、女装ネズミの役を組み込んだエクストリームシンデレラを書いてやるウラ!」
「アイスクリームシンデレラってなんだよ!? 」
女装だしアイスクリームだしってどういうことなんだ!? と混乱する遊馬の肩を、すっかり機嫌が直った真月がぽんと叩いた。
「よかったですね、遊馬くん! これで僕たち、お揃いです」
「お、お前なあ……」
がっくりと項垂れる遊馬の耳元で、真月は囁く。
「こうなりゃ道連れだ。ヒラヒラのドレスでも着てやろうじゃねぇか。なあ?」

***

「あ、あーシンデレラ。あなたはどうしてシンデレラなのー」
「カァァァァット! 何度言ったら分かるウラ! もっと情熱的に! 気持ちを込めて! チュリエットになりきるウラ! お前はチュリエットウラー!!」
「んなこと言ったってぇ!」
もう何度目かわからない檄が、台本係兼監督の徳之助から飛ばされる。徳之助の芸術的な改変により、エクストリームシンデレラはもはや原型をとどめていないエクストリームな脚本になっていた。シンデレラは継母に虐められないし、お城の舞踏会にいかないし、王子様と結婚もしない。ギリギリ魔女が魔法をかける「ビビデバビデブー」だけが、シンデレラらしさを弱々しく主張するのみだ。
遊馬はそのエクストリーム・シンデレラの超重要人物(ネズミ)の役として、毎日放課後居残り練習させられていた。なにせ遊馬ときたら台詞は間違えるわど忘れするわ棒読み棒立ちだわで、各方面から大不評を食らったのである。徳之助の筋書きがドラマティクかつサスペンスなので余計に目立つのだろう。目下、猛特訓中というわけだ。
「俺、こういうの向いてないってえ……」
「遊馬くん、がんばって! かっとビングですよ!」
ふぁいと!と真月が励ましてくるが、そもそもこいつが変なことを言いださなければ、遊馬はシンデレラへの想いの丈を声高に叫ばずに済んでいるのであるから、藪蛇というほかない。
「お前なー、お前はいいかもしれないけどなあ」
真月は当然というべきか、演劇がめちゃくちゃ上手かった。もはやプロの域、とはキャットちゃんの評である。まぁ本体を考えれば納得なのだが、真月は台詞を覚えるのも早いし、絶対にミスをしない。それに雰囲気が、なんというか別世界なのだ。役に入っている時の真月は本当にシンデレラになりきっているみたいで、まるで本物のお姫様なんだと錯覚しそうになるほどだった。制服のままでこれなのだから、衣装を合わせたらきっとすごいことになる、と衣装係は張り切っていたっけ。
「おれはお前みたいに上手くねーもん」
拗ねてみせると、真月は時々見せる、苦笑と微笑の間みたいな顔になって、よかれと思って頑張ってください、と言った。
「僕、遊馬くんと一緒に舞台に立ててほんとうに嬉しいから。だから頑張って。一緒に完成させましょう」
そんな風にいわれると、いつも遊馬はその気になって、よしじゃあ頑張るか! なんて、元気に返事をしてしまうのだった。単純なものである。

***

「遊馬、衣装できたって。真月くんと一緒に来て」
文化祭も間近に迫った頃。小鳥に呼ばれて行くと、衣装係が興奮した様子で2つの衣装を遊馬と真月に見せた。どちらもひらっひらのキラッキラで、中学生の手作りにしては感嘆ものだったが、これを自分が着るのかと思うとなんとも言えない気持ちになった。一方真月は
「わ、すごぉい」
なんて呑気なコメントをしていたけれど。
ドレスは赤と紫で、綺麗にシンメトリーになっていた。
「あれ、真月はオレンジかと思ってた」
「ええ、最初はそうしようかと思ったんですけど、真月くんの目って綺麗な紫じゃないですか。だからそっちに合わせたほうがいいかなって。赤との映えもいいですしね」
「へえ、よく考えてんだなあ」
でも、これ着るのかあ。肩とか結構出るような気がする。遊馬が逡巡していると、等々力がぐいと衣装を二人に押し付けた。
「とにかく、着てみないことには始まりませんから! さ、あっちの空き教室で着替えて。サイズが合うかどうか確かめたら、僕らに報告してくださいね」
それから有無を言わせず空き教室に突っ込まれて、あとには真月と遊馬だけが残った。
「へー、衣装はつくったことないけど結構上手くやるもんだな」
真月はーーベクターは、ぽいぽい制服を脱いでいく。全然抵抗がないようだ。
「なんかお前、乗り気じゃん。ほんとは嫌じゃなかったんだろ」
「あ? 嫌に決まってんだろ。何が悲しくてこんなメラグみてぇな服着なきゃなんないんだか」
「その割に嫌そうに見えないけど……」
「ふふん、遊馬クンの恥ずかしーカッコ見る方が面白いからな」
ムカつくほど楽しそうに笑って、ベクターは衣装に袖を通した。肩を隠すフリルに、ウェストでメリハリをつけたフレアスカート。濃淡の入り混じる紫のドレスは、ちょっとびっくりするくらいベクターに似合っていた。
「どぉですか、愛しのネズミさん?」
なんてコケティッシュに言って、その場でくるりと回って見せる。もとより中学生なんか性差などあってないようなものだ。顔はいつもの真月零なのに、すごく、かわいくてーー
「『ああ、綺麗よシンデレラ。月も嫉妬するほど、あなたは美しい』」
咄嗟に口をついて出たのは、劇中ネズミが変身したシンデレラを讃える台詞だった。案外覚えているものだなと、自分でも驚いたのだけれど。
「ば、ば、ば……」
なんでか、ベクターは口を金魚みたいにパクパクさせて、あうあう言っていた。いつもの済ました顔がみるみる真っ赤になっていく。最初のくじ引きのときもこんな顔してたな、と遊馬は思い出した。
「なんだよベクター。顔真っ赤」
「ば、馬鹿! なんなんだよお前!」
「えー、何怒ってんだよ?」
相変わらず怒りのポイントがわからないやつだ、と思いながら、遊馬は制服に手をかけた。ベクターが案外似合っていたので、女装もそんなに嫌とはおもわなくなっていた。
「へー、結構スースーするのな、女子は大変だな」
実際着てみると、ひらひらキラキラでテンション上がるな、と思ったのだが。
「お前……壊滅的に似合ってねぇな」
「うるせえよ!」
結局、遊馬のドレスは手直しされて、よりネズミっぽく変更された。

***

「ああ、シンデレラ。どうしてあなたはシンデレラなの?」
「それはねネズミさん。あなたとこうして屋根裏で出会うためよ。私、あなたに会うために、こうして生まれてきたの」
ほう、と観客からため息が漏れる。みんな真月のシンデレラに魅了されているようだった。遊馬も負けじと猛特訓したおかげか、それほどおかしなことにはなっていない。可愛い路線の衣装もコミカルでいい感じだ。
「私はネズミ、あなたは人間。でも、そんなのどうだっていい。あなたがあなたでいるうちは。私が私でいるうちは」
「愛しているわ、チュリエット」
「私もよ、シンデレラ。愛してる。ずっと、ずっと……」
そして二人のヒロインの影がそっと重なる。落ちていく証明。
『こうして、一人の少女と一匹のネズミは、いつまでも幸せに暮らしたのでした』
鉄男のナレーションがラストを締めくくると、会場は割れるような大喝采に包まれた。劇は大成功だった。

「ふー、疲れた」
「はん、噛まずに言えてよかったでちゅねぇ」
舞台裏で、二人は束の間の休息に浸っていた。ベクターは馬鹿にするような態度を崩しはしなかったが、上気した頬をみるにつけ結構楽しんだようだった。
「でも、お前本当にうまかったぜ。こういうの向いてるんじゃないか、俳優とか」
「どうだか。でも、お前が一緒にやるってんなら考えてやってもいい」
「ええ? 別に女装しなきゃいいだろ」
首を傾げると、未だにドレスを纏ったお姫様は意味深に目を細めた。
「女装じゃなくても、ですよ。遊馬。だってさっき誓ったじゃないですか。『ずっとずっと愛してる』って」
「あ、あれは劇だから!」
「ひひ、約束破るなよ。いくぞ、エンドロールだ」
「おい、待ってってば!」
煌々と照らすスポットライト、割れるような拍手の雨。優雅にお辞儀する役者たちの一軍に、遊馬と真月はしっくりと馴染んでいた。まるで
、いつか来る二人の未来を暗示しているかのように。

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