ジャンル:獄都事変 お題:愛と憎しみのカップル 必須要素:スラム街 制限時間:15分 読者:169 人 文字数:1276字 お気に入り:0人

表裏の情【肋斬】

「心から愛していたわ。だから、惜しみなく憎んだの」
うっそうと微笑む女に、斬島は実に複雑な顔をする。
言っている意味が分からなかったのだ。

「相反する言葉に聞こえるが……」
「……いいえ、同じ事よ、坊や」
ニィッと唇を持ち上げた女は短く「坊やも命懸けの恋をしたら分かるわよ」と言い残し。自ら魑魅魍魎の巣窟へと飛び込んでいった。止める暇も無く。その腕に抱えていた“男の魂”を奪い返す暇など、ある筈も無く。
「……スマン、田噛」
「本当にな」
ただ、今回の任務に田噛が同行していたことが幸いした。
飛び込んだ女は、巣窟に到達する直前で黒い鎖に捕まり、魑魅魍魎に喰われる事態は回避できたようだ。もっとも、彼女としては不本意だったのだろう。ワケの分からない絶叫に、罵詈雑言が混ざって響き渡っていたが……。
ただ、その意味を斬島が理解することはできなかった。
その時は……。


***************

「……どうした、斬島?」
眠りから覚めて最初に聞いた声。
ふと視線を上げれば、至近距離から心配そうに顔を覗き込んでくる赤い瞳。心地好い低音と共に逆立ちそうな心を宥めてくれる。
「……夢を、みました……」
「夢?」
「獄卒になったばかりの頃の夢を……」
「……」
「……愛したはずの男を憎悪で殺し。亡者となった後まで、魑魅魍魎を使って心中しようとした、女の夢です」
「……また、随分と古い話だな」

斬島が口にした女は、あいにくすぐには思い出せなかった肋角だったが。“獄卒になったばかりの頃”という単語から、大凡の時期をはかり、少し複雑そうな顔で笑う。

「女が言いました。愛していたから、憎んだのだ、と……」
「……愛情の真逆は無関心だが。裏返しは憎悪だからな」
「…………あの頃の俺には、理解できませんでした」
「……そうか」
優しく頭を撫でる大きな手に甘えるように瞳を細めながら、斬島はソッと吐息をこぼす。
「今は、少しだけ分かる気がします」
「ほぉ」
「気がするだけかもしれませんが……」
ベッドに横たわったまま、ボンヤリと言葉を紡ぐ斬島を見下ろす赤い瞳は、どこまでも優しい。
そこには一切の負の感情など存在していないようにさえ思う。

今まで、一度も疑ったことがないから、そうなったときのことなど、拙い創作程度の想像しかできないのだが……。
それでも
「おれ……」
だが、斬島がそれ以上を口にしようとしたとき、耳元に近づく気配と熱に。一つ瞬きをこぼす。
なんだろう、と顔を上げるより早く。
「……お前が俺を裏切るようなことがあれば、確実に首以外の全てを吹き飛ばしてやろう。蘇生さえできぬほどに」
「……え」
「俺以外の元へ行く為の足も、俺以外を求める腕もいらぬ。思いを抱く胸もな……。
 俺の元から動けぬのなら、その首は、俺を裏切りはすまい?」
「……はい」


自身を持って告げられた言葉に、夢現だった青い瞳が嬉しそうに笑う。

心から愛した。
だから、惜しみなく憎んだ。

そう言って貰えるのが貴方なら。
こんなに嬉しい事はない。

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