ジャンル:刀剣乱舞 刀さに お題:遅い空想 制限時間:30分 読者:230 人 文字数:1637字 お気に入り:0人

蛍火

 刀が、折れた。そして身体を失って消えていく彼らの最期に、私の手は届かない。
 ゴウゴウと炎は燃え盛り、ああ……私はもうすぐ死ぬんだなって。自分の死に対してはどこか納得している部分があるのに、目の前で自らが人の身を与えた彼らが失われていくのを見ているのは、身を引き裂かれるような気がした。

 本丸を検非違使が襲った。
 本来ならば、それは有り得ない事態だったはずだ。本丸は拠点だ。だから、本丸には強力な結界が張られている。まず感知することがほぼ不可能。万が一にも見つかったとして、簡単に敗れるようなヤワな結界は張っていない。『政府』とて本丸の結界にはより純度の高い神器を媒介として与えてくれていて、だから、ここに検非違使が群れをなして襲ってきていることがそもそも異常だった。

 だけど目の前で起こっている惨状は現実だった。
 私だけでも生き延びろと言って必死に戦い、刀たちは私を生かしてくれようとする。その意図はわかっていた。だって本当の意味で生きているのはこの本丸で私だけだ。彼らはあくまで神域から呼び出している分霊に過ぎず、その本体は神域にある。ここで折れたところで、彼らには蘇生方法があるのだ。
 それでも、私は彼らを盾にして生き延びたいとは思えなかった。
 彼らの意思を汲んでやるのがいい審神者だということも、わかる。でも、私には彼らしかいないのだ。幼くして、神を降ろす才能をかわれてここに来た。親も、帰る場所も知らない。私にとっての家族は彼らだった。私が今日まで戦ってきた理由は世界救済の為だなんてそんな大仰なものではなくて、それ以外に彼らと肩を並べて生きていく方法を知らなかったからだ。
 ここで私だけ生き延びて、それでもう一度彼らを呼び出したとしても、新しく出会う彼らにはここで過ごした日々はない。同じ姿形をしていても、それでは別物なのだ。意味がない。私が生きている理由は、今ここで私の為に折れていく刀たちを愛しているからだ。

 だから、逃げなかった。
 本当を言えば、自分のありったけの神気を使えば、『政府』本部まで逃げられたかもしれないという考えはあった。でも、彼らが死ぬのならそれには意味がない。私もここで果てたかった。そう思って本丸から一歩も動かない私に、彼らは何と思っただろう?

「バカ、主……」

 濡羽色の髪の間から覗く、真紅の瞳。私に可愛いと言われることが好きだった。私の初期刀、加州清光。
 私の刀。その最後のひと振りが折れるのを目の前で見届けた。曲がりなりにも私の神気で実態を与えていた男たちだから、全部折れてしまったことは、本丸を見て回らなくてもわかる。
 敵の数は残りは3。まだ逃げられるかもしれない。でも、逃げないと決めていた。
 私も今、ここで果てるから――……。

「待っててね、蛍丸」

 それは私が一番愛した刀だった。
 検非違使がここを襲ったとき、一番に立ち向かっていって、それで、一番最初に折れてしまった刀。その折れた刃を、私は未だ抱き締めていた。

 わかっている。私が死んだとしても、彼と同じところには行けない。
 それでも良かった。全て終わりに。うつつの夢に。

 そう思った瞬間だった。蛍が、舞ったのだ。

「……ほんと、主って俺がいないと全然ダメだよね」
「え……ほたる、まる……?」
「そう。蛍丸って、折れても蛍の力があれば治ることもあるんだ~。びっくりした?」

 夢、みたいだと思った。

 あたり一面の緑色(りょくしょく)の光。
 折れていなくなったはずの彼。だけど彼は確かに、私の蛍丸だった。

「それ、返して。主」
「それ?」
「刀」

 そう言われて、抱きしめていた刀を見下ろせば、折れていた刀身が確かにくっついている。驚いて瞬きを繰り返す私に、彼は悪戯を思いついた子供のように笑ったのだ。

「出陣してくるね、いってきます。今度は折れないから。俺と一緒に生きて、主」




題:遅い空想

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