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ひとりぼっちのせかい【レオいず】


 目が見えなくなった、とれおくんが言った。争いだらけの時期、世界には俺とれおくんしかいないように感じたあのころ。ボロボロになったれおくんはそう言って笑った。俺は言っている意味が分からなくて、いつものようにはぁ?と聞き返すことしかできなかった。まだスタジオがKnightsの拠点になることはなく、俺たちは元チェスから嫌われていたので特定の居場所を得ることができていなかった。だからこれはテラスで昼ご飯を食べている時の出来事だ。俺たちはこんなにも傷ついているというのに、空は馬鹿みたいに青くて、どうしようもなくいつもの昼休みだった。
「最近靄がかかってみたいだな~って思ってたんだよな。多分これ見えてないっぽい」
 平然と俺の目を見ているれおくんは、上手に昼ご飯を食べているように思えた。これで目が見えないのであれば今持っているスプーンは机の上に転がり落ちるだろう。しかしきちんと手でスプーンを握り口元まで運んでいる。
「こんな時に冗談はよしてよねぇ」
 俺はれおくんより少ない食事をフォークで一口食べてから水を飲む。健康管理もアイドルのうち。人間はすぐに太るのだから、自分で調節しないといけない。
「俺も冗談だったらいいなって思ってた!」
「はぁ?だってアンタ今何食べてるかわかってるでしょ?」
「カレー」
「ほらね、見えてる」
「うん。セナのこと以外は」
 何を言っているのかわからなかった。食べかけていた食事を止めた。目の前にいるれおくんは、いつものれおくんにしか見えなかった。俺と目が合っている。その眼の奥に映っているのは当然俺のはずだ。
「セナのことだけ、最近見えないんだ。不思議だよなっ?どうしよう、」
 にへら、と困ったように笑う。弓道部で腕を骨折してから、こういう笑い方が増えた。申し訳ないと謝罪を込めた笑み。自由奔放なれおくんはあのころからなりを潜め、俺のために騎士となっている。れおくんらしくない、そう怒りたいのに、俺に言う権利があるとは到底思えなかった。
「セナのこと守るって言ってたのに、セナがどこにいるかもわからない。声は聞こえるのに」
 限界だということはわかっていた。俺が俺の生き方をれおくんに教えたから。優しいれおくんは消え、傍若無人なふるまいをする王さまが俺の前に立つようになった。俺の王さまは、苦しそうに今も立っている。けれど続くはずもない。だって本来はとても優しい王さまなのだから。
「ごめんな」
 れおくんが謝る。俺のせいなのにどうして謝るのかがわからなかった。俺が正しいと思った生き方は、ほかの人にとってもそうであるとは限らない。わかっているのに、あの時頼られたのが苦しくらい嬉しかった。まるで告白のようだった。俺はれおくんが思っているような人間ではないけれど、れおくんに評価してもらえて頼られるのであれば、俺なりのふるまいを返そうと思った。れおくんがどうなるかも想像しなかった、俺の罰だ。罰がこうして降りかかっているのだ、と思った。
「俺が食べているものは…?見える?」
「パスタだろ、その横に水もある。セナはその水筒にいつも水を入れてるもんな」
 れおくんはずっと、俺のことが見えないけれどいる「てい」で接してくれていたらしい。だから目が合っていると感じていても、れおくんが俺の身長を思い出してそのあたりに目線を挙げているだけなのだ。
「そっか」
 それだけ言うのが精いっぱいだった。椅子を引いて、れおくんの頬を触る。れおくんは椅子が引かれるのを見て「トイレか?」と適当なところに視線を泳がせた。残念ながらそこに俺はいない。唇を近づける。きっと口づけをしてもれおくんは気付かないだろう。触れた温かさも感じることができず、俺がどこに行ったかもわからずに座っているのだろう。
 頬から手を離す。唇を合わせることはできなかった。
 知らずのうちに涙が頬を流れていた。こんな惨めな姿、れおくんに見られなくてよかったと思う。そう思うとまた想いがあふれて止まらなかった。

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