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利用価値

 思えば誰にも住所なんて聞いていないし、誰かに教えた覚えもない。アルジュナは頭を抱えた。このアルジュナとあろうものが恥ずかしい!新年の風習はこの国出身でないとはいえ従いたいと思っていたのに。郷に入っては郷に従えということわざもあったろう。この日本という平和な国に来たのは今年のことであったから忙しかったり、文化に慣れぬところがあったのは事実だ。それでも年末にもなれば適応できると考えていたのは些か楽観的すぎたか。

「今更書けるようなタイミングではあるまい…どうしたものか」

 世話になった人は大勢いた。アルジュナと同じ境遇──アルジュナが通う大学には留学生がたくさんいる──の友人たちも多くいた。その恩に対してなんという裏切りだろう。部屋に差し込む日の元に膝を抱えて蹲るが、解決策が見つかるわけがない。
 来年分は諦めよう。また次の機会に、今度は環境を整えて万全の体制で挑もうではないか。だいたい手元に紙もないし。
 そこで、あ、と気づく。いる、一人いる。元旦に渡せる──いや、挨拶がちゃんと出来る相手がいる!

「もしもし………ロビン、ですか」

 よかったらうちで年を越しませんか?一人では寂しいのです。どうか、私に慈悲をください。
 向こうはふたつ返事で了承した。断られることは考えていなかったがひとまず胸を撫で下ろす。あの男が恋人の誘いを断るなんてありえない、のだけど。さて、では準備を始めなくては。大晦日まであと一日しかない。


「こんちは」
「いらっしゃい、ロビン」

 大晦日の夜。恋人のロビンフッドを家へと招き、炬燵に入らせる。今日の晩御飯は二人分の鍋だ。一人では寂しいだろう?

「いやあ、まさかこんなところに一人暮らし出来るような恋人ができるなんて本国にいる時には考えませんでしたよ」
「私もですよ、ロビン」

 他愛のない話をしながら除夜の鐘の放送を見る。

「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう」
「では、これを!」

 ロビンの前へと差し出すのは、一枚の紙。

「年賀状、です」
「………本人が本人に渡すかい、普通」
「ふふ、こんなことがあってもいいでしょう?」

 今年も、よろしくお願いしますね。

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