ジャンル:バンドリ!ガールズバンドパーティー! お題:失敗の同性愛 制限時間:1時間 読者:130 人 文字数:4181字 お気に入り:0人

数年後丸山が白鷺と二人きり苦手世界線

#あやちさ

 多分、報われることはないんだろう。
 そんなこと、バカな私にだってわかってる。気付いてる。
 ううん。
 報われなくって良いんだって、そんなことだって思ってる。
 ほんの小さなきっかけを口切りに転がり出してしまった気持ちは、転がってやがて駆け出して、手を繋いで。知らない間に、胸の真ん中でこんなに大きくなっちゃって。
 楽しいときは良い。頑張って練習して、皆とたっくさん話合って、宣伝に告知もばっちりこなして準備万端で迎えたライブステージとか。それか、大きなテレビ番組のお仕事をいただいて、大好きな皆と一緒に笑い合いながら、私たちのことをもっとたくさんの人に知ってもらえる時とか。
「…………」
 はぁ、と小さく息を吐いて、ぐっと体を伸ばした。
 体も随分と柔らかくなった。何年も続けてきたストレッチ。何回も繰り返してきた、練習前の準備運動。
 伸ばしながら、深く、深く息を吐く。
 悲しいときも良い。何度やったって上手くいかなくて、皆に迷惑を掛けてるって思えば思うほど焦ってしまって、けど皆大丈夫だよって待ってくれて、申し訳なくて。名も無いアイドル候補生だった頃は小さな応援だけ貰っていたエゴサーチだって、見かける言葉も楽しいものだけじゃなくなって。
 けど。
「………………」
 届いた爪先を触って、しばらく固まる。
 何でもないとき。ふとしたとき。ちょっとした隙。
 それは、胸の中のこの気持ちは――、逃れようもないくらい、私の中を覆い尽くす。
 彼女に会えてしまったときは、二人きりになってしまったときは、一層、強く。
「……それじゃあ、そろそろ始めましょうか」
「…………っうん」
 私たちPastel*Palettesは、メンバーが全員学校を卒業して活動が本格化してからは、それぞれ個人でのお仕事も増えた。日菜ちゃんは何でもこなせちゃうし、個人でのテレビ番組だって持っている。発言はまだ危なっかしいままだけど、昔に比べておねーちゃんを連呼しすぎないようになったし……あ、でもパスパレの宣伝そっちのけでRoseliaの話しちゃうのは、なおしてほしいところかも……。麻弥ちゃんは元々スタジオミュージシャンだったこともあって、音楽関係の仕事が本当に増えた。私は素人目ながらすごいなぁって思うだけだけど、話によると、プロのミュージシャン(私たちもその端くれだけど)と比べても遜色がない、というか、すっごく上手なんだって。麻弥ちゃん、見た目だって本当に綺麗になってるから、バックバンドとして声がたくさん掛かるのもわかるし、とっても誇らしい。そしてイヴちゃんは、ちょっと羨ましいくらいに背が伸びて、今はモデルのお仕事が絶世期。侍が好きなのも相変わらずで、そのキャラクターを買われて結構バラエティ番組に呼ばれたりしている。イヴちゃんはそんな今に思うところもあるみたいだけど、これもパスパレのためですねって頑張ってるから、……いつか私たちで、ちゃんと話し合いたいなぁって思ってる。
 彼女がベースを肩に掛ける。一番最初はベースを選ぶのだって少し不服そうにしてた彼女だけど、今はただのお仕事として、以上に、ベースと真剣に向き合っているみたい。彼女こそ、本当に忙しくなって、だから彼女と二人きりっていうのも、本当に久しぶりで。
「……マイクの準備はいらないの?」
「……ん、ごめんごめん」
 準備をしながら、マイクを手に取ってぱぱっと音を調整する。目印としてミキサーにテープも貼ってくれてるけど、もう随分前に見ないでも設定できるようになってしまった。麻弥ちゃんが色々教えてくれるから、何となく、いつもの設定以外もできるようになった、気がする。……怖いからやらないけど。
「正直、音は足りないけど……皆忙しいなら仕方ないわね」
 苦笑する彼女は、彩ちゃん、と私の名前を呼んだ。
 それだけで跳ねる心臓を自分で笑って、それを誤魔化しにそのまま使って、私は「うん、しかたないよ」と返す。
「千聖ちゃんもマイク使う?」
「……そうね…………」
 ぶーん、とアンプから低い音が漏れる。彼女はフレットに指を滑らせながら、少し考えていた。
「…………いいえ、遠慮しておくわ。次の曲、少し不安なフレーズがあるの」
「そっか、わかった」
 答えながら、少しだけほっとしていた。
 きっと彼女がマイクを使うとなったら、初めの声出しは、何度も何度も歌ってきた、あの曲になるだろうから。
「とりあえず音出しで、……しゅわりん☆どり~みんからで良いかな?」
「何でも良いわ。彩ちゃんの喉の調子に合わせて」
「そんなに悪くはないけど……いきなり新曲歌うと裏返っちゃいそうだし、うん、しゅわりんで」
 カチ、とスイッチを押す。
 しー、と流れ始める小さなノイズ。少しして、電子音のカウント。
 息を吸う。
「――」
 喉を滑る息。マイク越しに、そしてマイクの傍から漏れて耳にそのまま、私の声が届く。
 隣から響く低音。音源のそれよりもずっと強く、過ごした時間の分だけこだわりが強くなった彼女の音が、響いてくる。
 二人きりのスタジオ。ベースとボーカルだけの空間。
 鼓動が早まる。ラブソングを歌うのは大好きだけど、でも、この瞬間だけは、彼女と二人きりのときだけは、もっと他の曲を歌いたくなる。
 意識してしまう。きっと彼女も気付いてる。声が、上擦っていく。
 気付かれてしまわないかって思うほど、息が苦しくなっていく。
 もしもこれであの曲なんて歌っていたら、とても歌いきれなかっただろう。
 全然ダメダメなコンディションで、それでもどうにか慣れで歌いきると、アウトロでベースがいつもより早い不自然さでぶつっと音を切って、千聖ちゃんが咎めるような目を向けてきた。
「……彩ちゃん、一応音出しとはいったけれど」
「う、うん、ごめん。慣れで歌っちゃってた、よね」
「わかってるなら良いけど……新曲、いけそう?」
「………………」
 少し考える。新曲は、諦めたくない恋の歌。まだ届くかもって気持ちを応援する歌。
 それを、今歌うのは。
「……わかったわ、とりあえず、ベースだけ練習したいから」
「えっ、わ、私、大丈夫だよっ?」
「あのね、彩ちゃん。彩ちゃんのコンディションに関しては、私たちの方がずっと詳しいの。散々思い知ってるでしょう?」
「う……」
 ライブ前に不調を指摘されつつ大丈夫で通した過去がある以上、強くは言い出せない。それ以降こうして私の空元気を諫めるのも、恒例になってきていた。
「もう三年も前の話なんだから、そろそろ許してよ~……」
「いいから、大人しく譜読みでもしてなさい」
「……はーい」
 千聖ちゃんはアンプに向き直って、しゅわりんの音から新曲の音に合わせて設定を変えていく。私は音源を操作して、新曲のイントロを軽く流す。
 準備が整ってから、改めて静寂が戻ったスタジオで、千聖ちゃんが小さく息を吸った。
「……良いわ、流してちょうだい」
「……うん」
 イヴちゃんのキーボードソロから始まる曲。
 そこに日菜ちゃんのやんちゃなギターが、……今は無機質なギターの音が寄り添って、ドラムがイントロを開かせる。
 ベースが寄り添う。
 音源を掻き消してしまうくらい大きな音。いつもよりすっきりした音で、音量だっていつもより控え目なくらいなのに、それでもいつもより大きく聞こえる。
「…………」
 譜を追っていく。恋に気付いた女の子。それまでしていた何気ないことも、ただの友達同士の距離感も、ひっくり返ってしまった。
 あの人から見た私はどんな色だろう。気付かれたらどうなるんだろう。胸に秘めたまま隣にいれたら。
 けど、諦められるほど弱くない。
 嫉妬だってしてしまう。ただの友達って言われても、少し前の私も、ううん今の私だってその距離にいる。
 まだ言えないけど、いつか貴方の特別を……。
「…………」
 唾を呑み込む。譜を追うのを辞める。
 千聖ちゃんのベースがもたついた。千聖ちゃんは眉を寄せて、それでもミスを気取らせない指運びのまま、続きを紡いでいく。2番のサビが終わって、日菜ちゃんのはちゃめちゃなギターソロが入って(最近は日菜ちゃんが好きに弾いたフレーズをそのまま採用することも多い)イヴちゃんのキーボードがイントロからの続きを紡いで、ベースがその裏で動いていく。動くベースが曲を高めて、最後のサビに繋げていく。
 千聖ちゃんの目が、少し持ち上がる。目が合う。
 ――伝えたい。
 ホントは想っていること。ずっとずっと知らないままの貴方に、キスだってして伝えてあげたい。
 言ったら壊れるものがある。それでも許されるなら、好きを届けたい。貴方だけの特別になりたい。
 ねぇ――貴方は、笑ってくれますか。
「………………」
 なんとなく覚えていた歌詞の意味が、曲と一緒に駆けていって。どうして見つめあったままなのかもわからないまま、少し動いたら何か言ってしまいそうで。
 アウトロが終わって、イヴちゃんの代わりの電子音が、特徴的なフレーズで曲を閉じていく。
「…………」
「………………」
 静かになるスタジオ。見つめあったまま。胸はいっぱいなまま。
 泣きそうになる。私が誤魔化そうと口を開きかけると、千聖ちゃんがさっと顔を――汗を拭った。
 彼女は長い髪をゆらりと揺らがせて、上気した顔を私に向けた。
「……何か、気になるところ、なかったかしら?」
「…………」
 下唇を柔らかくくわえて、それを離して、私はんんーと声を出した。
「……2番のとこ、千聖ちゃん、少し……」
「あぁ、……相の手のところね」
「うん、そこ」
 千聖ちゃんはすぐに指を動かすと、そこの音を奏で始める。
「……つい、ずれてしまうのよね」
 千聖ちゃんは苦い溜め息を零すと、自嘲するように笑った。
 私はそれに何も言わないまま、「もう一回、かけるね」とだけ言った。
 歌詞を書いた紙は、ぴったりと閉じたまま、私はスイッチを押して、千聖ちゃんの指だけを見つめていた。
 曲に合わせて歌詞をなぞれたら、どんなに良かったかな。
 ねぇ。

 もしも、伝えたら――貴方は、笑ってくれますか。

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