ジャンル:世界樹の迷宮 お題:誰かと恋人 制限時間:30分 読者:45 人 文字数:1554字 お気に入り:0人

穀潰しの暇潰し





 とにかく暇な日だった。世界の終わりが来るからみんな家に引きこもり愛する者と過ごしているために、こんな場末の食堂に足を運ばないんだと思いたくなるほど、暇だった。
 店のど真ん中に位置するテーブルに座り込み、ぼんやりと煙草を吹かす。紫煙が人影に見えた気がして、いっそ煙草の煙が客になって飯を食いに来てくれればいいのにと夢想する。
 このまま店閉めて帰ろうかな。外に出たら隕石が降り注ぐ真っ只中かも。それならこのまま店にいた方が……
「……お、あっ、いらっしゃい」
 ピンク色をした髪の男が小さく頭を下げ、後に続いて入ってきた赤毛の大男は会釈もせずにのしのし店内を横切ると、店の一番奥、角の席へとどっかり腰を下ろした。
「メニューは席に置いてあるから、決まったら声かけて」
「……うん」
 ため息みたいな相槌を返し、ピンク髪が赤毛の下へと急ぐ。
 痩せて細っこい背中はいかにも頼りなくて優男って感じだったけど、あの服装は紛れもなくリーパーのそれで、半ズボンから伸びる足もまた骨っぽくて、犬の骨ガムが人間になったように見えた。
 このままぼんやり待つより二人のやりとりでも聞いていたほうが少しはマシだろう。そう判断した俺は煙草を揉み消し、奇妙な組み合わせの二人組を観察するため隣の席へと移動した。
 赤毛の男がちらと視線を上げ俺の顔を射抜くと、すぐに興味なさそうに遠くを見つめる。
「これ……」
「ん」
「どうする?」
「どうでもいい」
 差し出したメニューを引っ込めて、泣きそうな顔をしてピンク髪が唸る。
「ど……どうでもいいじゃないだろ」
「何でもいい」
「何でもいいじゃなくて」
 ピンク髪は忙しなく目線を走らせ、気まずそうに俺の顔を上目遣いに見つめては紙面を眺め、赤毛の顔を見やり、ため息をついて木目をじっと見下ろし、またメニューを見つめた。
「俺、もう決めたけど」
「またミートソースのスパゲティか?」
「……うん」
 手元のメモ帳にすかさず書き記し、にっこりと微笑んでみせる。
「ミートソーススパゲティね」
「あっ、そう。それで、こいつは……えっと」
「どうでもいいも何でもいいも、うちのメニューには載ってないなぁ」
「えっ、あ……うん……」
 渾身のジョークを無視され、こっちまで泣きそうになりながら、赤毛の注文を待ちぼうける。
 赤毛がコートの胸ポケットから煙草を取り出して唇に咥えると、ピンク髪が慌ててマッチを擦りそいつに火を点ける。
 マッチを探る素振りも見せず、ピンク髪の妙に慣れた手付きから、日常的にこういう親分と子分みたいな力関係であることが何となく察せられた。
 親分子分というより、二人が時折互いの視線を絡ませる独特の間合いは、多分……。
 赤毛が一息吸い込み、顎を上げ天井に向かって煙を吐く。立ち上る煙を目で追いながら、小さくぼやく。
「お前の飯が食いたい」
 ピンク髪が信じられないといった様子で瞳を見開き、諦めたように顔を伏せた。
「……何がいい?」
「何でもいい」
「…………分かった」
 ──ああ。なるほどね。
 デコボコした二人組の関係性がぼんやりと輪郭を見せ始める。掴んだ尻尾を手放して聞かないふりをすればよかったけど、俺の性格上それはできそうになかった。
 言わない方がマシなことはたくさんあるけど、言わずにはいられない事も多くの人ある。この一言もその中の一つだ。
「もしかして」
 二人が同時に俺を見る。翠眼とブラウンの瞳が注がれ、胸が奮い立つ。
「……お二人さん、恋人同士か何か?」
 赤毛が無言で俺を睨めつける。ナイフで刺された方がまだマシって感じの眼差しに心臓が縮み上がり、そうして俺は今日初めての客を逃したのだった。

──まぁ、後悔はしてないけど。

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