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【カルジュナ】ショタスナイパーxボス5

カルナと私の均衡が崩れたのは、奇しくも第三者たる存在が引き金となった。
その日、私は珍しくスケジュールが崩れ、私用で繁華街へ出ていた。カルナに年相応の格好を、とブティックを練り歩いていたからだ。カルナは私たちの着るようなスーツが欲しいとしきりにねだっていたが、私はカルナにそれはまだ早すぎると思った。久しぶりに自分で運転した車で、自身の屋敷に戻ってみれば、そこには凄惨たる光景が広がっていた。
屋敷と呼ぶには小さい家だった。それでも両開きの扉から入った先のロビーの明るさは気に入っていたし、小さな庭に伸びる草花の青々とした輝きを眺めながら外出するのも好ましく思っていた。そして中に仕える数人の使用人は、私の職業を知っても尚、何も口外することなく平等に、公平に、雇い主への敬意を表してきた数少ない者たちだった。
そう、だった。
今、私の革靴が踏んでいるのは彼らの流した夥しい量の血液であり、それは絨毯に染み込み、これから酸化して、まるで炭もかくやという色に変化していくことだろう。私は自室への扉を開ける。
使用人長が、そこで頭を撃たれ、命の灯を消し去られていた。
私は使用人長に近付き、そっと瞼を閉じてやる。

壁に、床に広がっただろう血を使って、メッセージが書かれていた。
『今宵、シチリアの浜辺でお待ちしております』と。
そしてその下に、数名の、私の直属の部下の名前があった。彼らの命を握っているぞ、という意味だろう。拉致、だけで済んでいるのならば良いが。

このやり方には覚えがあった。我らがファミリーのボスが、自分の脅威となるだろう部下を潰すときに使う手だった。
私も何度かその作戦を手伝ったことがある。良き同僚も居た。良き部下も居た。だが、マフィアにおける鉄の掟は絶対であり、ボスが死ねと言えば死なねばならない。そういう世界で生きていることを、今、私は久方ぶりに思い出したのだろう。指先に火が灯っているように熱い。これは憤怒だ。何故彼らが、彼女らが死なねばならない。自分の務めを果たしていただけの、勤勉な人々をこうして殺す必要があったのだろうか。
私が目障りになったのならば、私をそのまま殺せばいい。

このまま指定の場所へ行ったところで、ボスに捨てられた私には皆、こぞって銃弾を撃ち込んできて、それで終わりだ。しかし、部下を見殺しにはできない。ボスは、人質をターゲットの目の前で殺すのが好きなのだ。だからこそ、部下たちはまだ殺されてはいまい。

「アルジュナ」

カルナの声が耳に入る。そうだ。この屋敷に入る前から意識の外にあったが、カルナはこの惨状に怯え、恐怖してはいないだろうか。
振り向いた私を、カルナの、常日頃から貼り付けている無表情が迎え撃った。
そしてカルナは、その細く、しなやかな体を目いっぱいに使って、銃火器をこれでもかというくらいに背負っている。ゆらり、とカルナの髪先から、燐光のような火花が散ったように感じた。

「これを」

何かを放られ、咄嗟に受け取る。カルナが投げてきたのは、ワルサーP5。空の薬莢が左に排出される、珍しいタイプの拳銃だ。私は両利きである、と公言しているが、元は左利きだ。右利き用としてのベレッタやH&Kも使いにくくは無かったが、手に馴染むかと問われれば、否。
カルナは私がワルサーを手に馴染ませる姿をじっと見つめていた後、ふっと唇を綻ばせた。

「オレが忠犬であることを示す良い機会だ」
「その言葉は……もう、修正を諦めましょう。ですがカルナ、貴方のような子供を、流石に死ぬと分かっている場所へ連れていくことはできませんよ。私のみでは子供一人といえど、守り切ることは難しい」
「そうではない」

きっぱりとカルナは言い切る。それからサブマシンガンのグリップの固さを確かめながら、胸部ホルスターと腰部ホルスターも片手で装着する。

「いいか、アルジュナよ。オレがお前を守るのだ。お前を絶対に死なせん」

ショットガンを背負い直しながら、カルナは言い切る。それが絶対の運命であるかのように。

「オレの愛を信じろ、などとは言わん。ただオレの愛に平伏するものだけを目に焼き付けるがいい」

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