ジャンル:バンドリ!ガールズバンドパーティー! お題:熱い祝福 制限時間:1時間 読者:186 人 文字数:2083字 お気に入り:1人

こころと月曜日の朝と憂鬱

 秋口の、抜けるような青空と心地よい風の吹く日の朝。
 駅から学校まで歩くあたし、奥沢美咲は隣にいる少女の顔をちらりと見る。弦巻こころ。少女はいつものように、興味深くて仕方がないという様子できょろきょろと周りを見渡している。
 「ねえ美咲」
 「なに、どしたの」
 「今朝はどうしてみんな辛そうな顔をしてるのかしら?」
 「どうしてって…月曜だからじゃない?」
 「月曜だから?」
 「土日が終わって、学校とか仕事とか始まるわけじゃん。それが嫌だなって人がいっぱいいるんだよ」
 「ふーん…」
 こころはほんの少し俯いて考え込む。数秒後、その瞳が爛々と輝くのを見たあたしは思う。
 (あ、これは何か思いついた顔だな)
 「決めたわ!毎週月曜の朝、ここでライブをしましょう!」
 「だと思った。…月曜の朝から、ねえ」
 「だって、楽しい一週間が始まるのに沈んだ顔をしてたら損だわ!ライブをして、みんなを笑顔にするのよ!」
 そう言った彼女はあたしの前に出て、くるりと向き直る。
 「ね、美咲」
 「はー…ミッシェルには話しとくから、今度みんなで集まる時にまた話そっか」
 月曜の朝がちょっと憂鬱なのはあたしも一緒なんだけどな、と心の中でひとつ溜息を吐いた。


 (死にてえ)
 月曜の朝がこれほど憂鬱になる日が来るとは思っていなかった。小学校、中学校、高校の頃も少しは憂鬱だったけど、友達と会うのも部活も楽しかったから遅くても午後にはそんな気持ちは吹き飛んでいたし、大学に入ってからは曜日なんか関係なしに毎日遊んでバイトしてたまに勉強して。そういう生活だった。
 (先輩が言ってたことって大袈裟じゃなかったんだな)
 曰く、日曜の夕方くらいからめちゃくちゃしんどくなる。
 曰く、土曜の終わりから既にしんどい。
 いわんや、月曜の朝をや。
 就活をどうにか乗り越えて、年の近い同期と研修を受けていたまでは良かった。配属が決まり、実際の業務が始まって何年か経った辺りから、月曜日の朝に登る駅の階段は絞首台に続いているんじゃないかと思うようになった。そのまま首を吊れたらどれだけ楽なことか、とも思った。
 季節は秋に差し掛かる頃。吹き抜ける風が頬を掠める。スーツにジャケットを着てちょうどいいくらいの気候。空は透き通るように青く、僅かばかりの雲が漂っていた。
 (空はいいよな、何もしなくていいんだから)
 我ながら意味不明ないちゃもんをつけながら、俯きがちに歩いていると、ふと視界に違和感を覚えた。
 (ピンク色の…クマ?)
 とうとう幻覚まで見えるようになったか、と思いその方向を見やると。
 (なんだ、あれ……?クマと、バンド…?)
 やたら目を引くピンク色のクマの他に4人。
 黒と白のベースを携える、ショートボブの活発そうな少女。
 すらりとした長身にポニーテールで、ギターを持つ姿がやたら様になっている…少女?
 小さなドラムセットの向こうに座っている、サイドアップのおっとりしてそうな少女。
 ピンクのクマの次に目を引く、腰まであるきらきらした髪と眩しく輝く瞳が印象的な少女。
 幻覚だと思ったピンク色のクマの前にはテーブルらしきものが鎮座していて、クマはそれを何か操作しているようだ。
 (……何も、月曜の朝からこんなのやらなくていいだろうがよ…)
 憂鬱と苛立ちに浸された脳では、何もかもが疎ましく感じる。
 足早に立ち去ろうとしたその時、少女の声が聴こえた。
 「みんなー!笑顔を、届けに来たわよ!せーの!」
 合図に続いて、声が重なる。
 「ハッピー、ラッキー、スマイル!いえーい!」
 次の瞬間、音がした。
 遊園地のパレードを思わせる、わくわくするような音。歌っているのは輝く瞳の女の子。笑顔を届けに来た、そう言っていた子。
 いつの間にか、足を止めていた。理由はわからない。正面に陣取り、少女とクマの集団を見ていた。世界中に暖かく祝福されているようなその様子を見ていると、時間が止まったような気がした。
 「そこのあなた、良い笑顔ね!」
 さっきまで歌っていた子に声を掛けられ、思わず飛び上がりそうになる。曲が終わったらしい。
 「…は?笑顔?」
 「ええ、あなた、すっごくいい笑顔をしてるわ」
 「……」
 自問する。月曜の朝に?笑顔?驚きと戸惑いで頭が一杯になる。
 「さっきまでのあなたは、とても辛そうな顔をしていたわ。…月曜だからかしら?」
 図星を突かれ黙り込んでいると、真っ直ぐにこちらの目を見つめたまま、彼女は言う。
 「けど、少しの間でも笑顔になってくれて、良かったわ」
 そう言って目を細めて微笑む彼女に、祝福されている気がした。心に暖かいものが灯ったのを感じながら、口を開く。
 「…あの、また歌ってくれませんか」
 我ながらちょっとキザな言い方になってしまった。意に介さず、彼女は答える。
 「ええ。月曜の朝にみんなが笑顔になるまで、毎週ここで歌うわ」
 にっ、と歯を見せて笑う彼女は、空に昇る途中の太陽より眩しかった。

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