ジャンル:メギド72 お題:闇のエリート 制限時間:1時間 読者:140 人 文字数:1985字 お気に入り:0人

転校生

※アンドラスさん幼少期捏造 モブ視点 ほのぼのしてない

「ねぇ聞いた? 転校生、成績トップだって」
「古典と詩文以外は、だいたい満点だったらしいよ」
「嘘、あの教授、点をくれないって有名じゃない?」
 興味がないフリをとりつくろいながらも、俺は内心あまり面白くなかった。
 今回の試験は俺が一番だったのに。
 こんなときに転校生が――しかも、話題になるような転校生が来るなんて、ほんとうにタイミングが悪い。せっかく必死こいて勉強して良い成績をとったというのに。
 教室中の話題をかっさらっていった転校生は、今まさに級友たちに囲まれている。ふわふわした笑みを浮かべて、まんざらでもない様子だ。
 俺は舌打ちしたくなるような気持ちを押し隠して、転校生に話しかけた。
「なあ、転校生。お前、成績良いらしいじゃん。家庭教師とか、そういうのいたの?」
「いや、独学だよ」
「ふーん、そうなんだ?」
 すかした態度がますます気にくわない。
 転校生はもう少し話したほうが良いのか、それとも黙っていたほうが良いのかをうかがうように、奇妙に口を開けて何か言おうとしたが、やめた。
 俺にも、それ以上話す気はなかった。

***

 あっという間に成績は転校生に抜かれた。
 俺は同年代の中では勉強も運動もできた。それに要領が良いと思っていた。しかし、それは本当に頭の良いヤツからしてみれば、ほんとうに、凡人に過ぎなかったということだ。
 しかしもう一方の心配については、俺の杞憂のようだった。
 転校生は、始めこそ人に囲まれていたが、一人、また一人と、転校生のことを避けるようになっていた。どうしてか聞いても、皆、分からないという。
 誰もがあいまいに言葉を濁すばかりで、はっきりした理由がある人間は少なかった。
 また、別に仲が悪いわけでもない。用事がある時は話しかけるし、あっちから話しかけてくることもある。
 転校生の顔をみて、慌てて向きを変えた女子生徒がいた。たしか、転校生と仲が良かった(良さそうに見えた)子だった。
「なあ、なんであいつを避けるんだ?  前はきゃーきゃー言ってたくせに」
「あのね、……別に嫌いになったってわけじゃないの」
「じゃあなんでだよ」
「虫をね……」
 級友はそっと目をそらす。
「虫がね、いたからね。取ってって言ったの。そしたら取ってくれて……取ってくれたのはいいんだけど……」
「なんだよ、叩き潰したとか?」
「ピンを取り出して、背中に……刺したの……流れるみたいに……ほんとに……当たり前みたいに……」
 なんだかぞくりとして、俺は転校生の横顔を見た。転校生は、相変わらず本を読んでいた。

***

「俺たちが生まれる前に埋もれた資料を持って来いとかぬかしやがる、あの爺」
 俺は外面がよく、転校生も多分良い。体よく雑用を押し付けられて、使いっ走りをさせられている。
 蔵書室は黴臭く、本棚のほかに、使われていない資料が無造作に積みあがっている。転校生が上級のコースをとるようになったので、なかなか授業で会う機会はなかった。俺はまだ、中級コースだ。転校生は真面目に資料を探していたが、時折興味が惹かれるものがあるようで、ぱらっとめくっていた。
「なあ、転校生」
「?」
「俺、奨学金貰ってんだよ。別に貧乏ってわけじゃないけど、家があんまり裕福じゃないんだ」
「? ああ、そうなんだ。たいへんだね」
 他人事みたいな口調に、妙にイラっとさせられる。
「次の試験で、俺よりいい成績をとるな」
 俺の言っていることを咀嚼するように、転校生は目を細める。それから合点したように、「ああ」と頷く。資料を捲る傍らで。
「ああ……それについては、心配ご無用。次の試験で、俺は上に上がるから」
 その発言についカッとなって、俺は思い切り本棚を叩きつけた。
 ほこりがぱらりと降ってきた。それから影。ばらばらと本棚が崩れた。
 まずい、本の入れ替えで不安定になっていたのだ。

 本棚に押しつぶされて、俺は床に倒れているのだと知った。動けない。
 だが、死ぬって程でもないだろう。
 だが、ここはめったに人が来ない。
 今は授業も終わった後で、週末の間ほっとかれたら……。
 転校生が、じ、とこちらを見下ろしていた。転校生がどういう表情をしているのか、俺にはわからなかった。
「……」
 転校生が、本棚からはみ出た俺の腕をとる。俺の手は腫れ上がっていた。
「おい、」
 俺は悲痛な声を出した。
「おい、人を呼んで来いよ!」
 返事がなかったので、俺は急に不安になった。こいつは、俺を助けてくれるだろうか?
「おい!」
「ああ、そうだね。それで、」
 教授のところには、何を持っていけばいいんだっけ。転校生は困った顔で、本当に純粋に困った顔で――俺に聞いた。

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