ジャンル:進撃の巨人 お題:君の宿命 制限時間:4時間 読者:24 人 文字数:2773字 お気に入り:0人
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宿命

エレンが楽園を出てマーレ国に向かう少し前の設定です。クルーガーに一方的に話
しかけるという内容です。オリキャラが一人いる上に、妄想と捏造を多々含みます。



「楽園に居場所が無いのなら、私と一緒に来るか?」

 エレンにそう言った男は、髪の色も瞳の色も、そして肌の色も、ミカサと同じで
あった。男とミカサの顔かたちは全く似ていなかった。だが、男の身中にミカサと同
じ民族の血が流れているという事実が、エレンに海を越える決心をさせた。


 海岸に到着してから、エレンは男にある事を願い出た。
「貴方の国の船が来るまで、ここで一人にして頂けますか?」
 エレンの願いを聞き入れる前に、男は「何故だ?」と質問を返した。
「クルーガーさんと、話しをしておきたいんです。明日から忙しくなるから、クルー
ガーさんとはゆっくり話せないと思うので・・・」
 真顔で言うエレンに、男は怪訝な表情をする事も無く「そうか」と呟いた。先に
行ってるぞと言い残すと、男は一人で真新しい桟橋へ向かった。
 目を眇(スガ)めながら蒼穹を見上げたエレンの緑色の双眸(ソウボウ)に、泳ぐように飛
び回るカモメが映る。羽ばたくカモメ、潮の香り、重い風の音。そのどれもが、この
海岸に来なければ見る事も感じる事も出来ないものだ。エレンが数日間前まで暮らし
ていた、ここから遥か彼方の北方にある楽園には存在しないものだ。
「クルーガーさん、何処かで聞いてるんでしょう?俺は、暫くの間、楽園を離れる事
にしました。クルーガーさんもよく知ってる国に行きます。あの国なら、貴方も安心
してくれると思います」
 世界と自分に覆い被さってくるような蒼穹のどこかにクルーガーがいてくれればと、
エレンは願った。この世界に骨の一片すら残されていないのなら、せめて魂か心のど
ちらかでいいから、自分の傍にいて欲しい。『道』を介さなければ、クルーガーの想い
は自分には伝わらず、自分の想いも彼へは届かない。蘇るクルーガーの記憶は、切れ
切れのものばかりだ。それでも、一旦『道』でお互いが繋がってしまうと、心の奥底
に仕舞い込んだまま誰にも言えないでいる本心を、クルーガーにだけは分かって欲し
いと願ってしまう。
 エレンがいくら目を凝らしてみても、海と見紛う蒼穹にクルーガーの存在は感じ取
れず、潮騒と空を穿つようなカモメの鳴き声に両耳を塞がれた。
 『道』で繋がるのは、クルーガーだけではない。『大地の悪魔』や彼女と契約した
ユミル・フリッツ、『ユミルの民』、歴代のフリッツ王にレイス王、数多(アマタ)の巨人
継承者達、哀れな『無垢の巨人』達、そしてグリシャとジーク。
 エレンは頭を軽く左右に振った。違う、彼らではない、彼らは自分の理解者ではな
い。理解者は、クルーガーさんだけだ。
 エレンは右手に持っていた小さなボストンバッグを砂浜に置くと、足先で砂を掻き
分けながら波打ち際まで進んだ。急かすように彼の足元に打ち寄せる波は、陽光を浴
びて銀色の光の粒を波間に散らした。
「皮肉ですよね。俺にやっと理解者が現れたのに、本人にはもう会えないなんて」
 潮風はエレンの耳元からうなじへ抜けると、彼の肩にかかる髪の毛先をふわりと舞
い上がらせた。
 エレンは空と海が交わる水平線に視線を向け、そこにクルーガーの存在を思い描い
てみた。
「クルーガーさん、貴方は、本心では俺に悪い事をしたと思ってるでしょう?隠して
るつもりでも、『道』とやらは貴方の本心も俺に届けてくれます。あの日、親父を引き
留めて復権派のリーダーに担ぎ上げたから、俺やジークに要らぬ宿命を背負い込ませ
たと、貴方は思ってる。でも、貴方が俺に申し訳ないなんて思う必要はありません。
俺と貴方は『ユミルの民』として、生まれ落ちた場所で生きていくより他に方法が無
かった。俺達にとっては、受け継いだ血そのものが宿命だった。宿命を、受け入れる
しかなかった」
 海の果てにも、空の彼方にも、クルーガーの想いや魂は存在しないと分かっていた
が、それでもエレンは水平線を見つめ続けた。見つめる事で、自身の中で流れる血の
中に、クルーガーの想いが残っていてくれる事を願った。
「俺は『道』で繋がれば、貴方の想いが手に取るように理解出来ます。貴方は、俺の
本心が分かりますか?もし分かって下さるなら、もう少し頻繁に俺に会いに来て下さ
い。夢の中でも起きてる時でもいいから、会いに来て下さい。俺は、どちらでもいい
から貴方に会いたい」
 エレンの視界の端に、鉛色の艦船が海上に存在感を現した。水平線からその艦船へ
視線を移したエレンは、波打ち際から離れると、砂浜の上に置いてあったボストンバ
ッグを手に取った。振り返り、再び水平線を見つめた。
「初めてこの海岸に来た日の夜・・・といっても、あの海岸線はここから大分離れて
いますが、貴方が子供だった頃の記憶を夢に見ました。貴方は、両親に誕生日を祝っ
て貰っていた。その後、俺が赤ん坊だった頃の記憶を見せてくれたのは、貴方でしょ
う?俺は、誰かの親指を握ってた。母親は、確かに俺を愛してくれてた。貴方は、俺
がこの世界に生まれたのは間違いじゃないと、教えたかったんですよね?貴方は、俺
も愛されて望まれてこの世界に生まれて来たんだって、伝えてくれました。無言でも
ちゃんと伝わってますよ。言ったでしょう?貴方の想いが手に取るように分かると」
 エレンは再び空を見上げて、ゆっくりと目を閉じた。潮風を深く吸い込んでから、
顔を下げ、目を開けた。落とした視線の先にあるのは、濡れた砂浜だ。
「もう、行きます。俺がこれからやろうとしている事を、理解して下さったら嬉しい
です。貴方がエルディア人と『ユミルの民』の為に守り続けた理想が実現する迄、あ
と少しです。約束の地へ辿り着けた時は、俺の傍にいて下さい。貴方が夢見た光景を、
俺も一緒に見たいんです」
 エレンは桟橋に視線を向けた。そこには、エレンを海の向こうにある東の国へ誘っ
た男が、一人で立っていた。エレンは桟橋に向かって歩き始めた。
 沖に停泊している鉛色の艦船からは、一艘のボートが桟橋へと向かっていた。黒に
近い濃紺の水兵服を着た男達がボートを漕ぎ、船首部分には、水兵服と同色のブレザ
ーの制服を着た男が一人、片膝を立てて座っている。
 濡れた砂浜には、桟橋へ向かうエレンの足跡が残っていた。エレンが今迄立ってい
た場所から数メートル離れた砂浜に、彼よりも一回り大きい足跡が一人分だけ残って
いた。


                                    終
拙作にお付き合い頂き有難うございました。'18,4,23

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