コーヒーキス
ふわりと広がるコーヒーの香りにモールは口元を綻ばせる。
「ごめんね、モール。インスタントしかなくて」
ランピーはインスタントコーヒーの瓶を棚に戻しながら申し訳なさそうに謝り、机を挟んでモールの正面に座った。
「気を遣わせてしまってすみません」
正直口が肥えていないのでインスタントもドリップも違いがあまりわからないんですよね。
モールが照れたようにはにかみながらそう言うと、ランピーも「僕もそうなんだよね」と笑ってみせる。
「だからインスタントばかり買っちゃうんだよね」
「経済的ですしね」
モールはコーヒーを一口啜り、はあ、とリラックスする為の溜息を吐いた。
モールがランピーの家を訪れるようになって、ランピーはさまざまな飲み物を自宅に用意するようになった。
ジュースに紅茶、緑茶にコーヒー。
モールの為に店でそれらを選ぶ時間はランピーにとって密かな楽しみであった。
モールと知り合ってから些細な日常の行為にも楽しいと言う感覚が生まれ始める。
今まで億劫に感じていた家事や掃除も、モールが遊びに来るのだから綺麗にしなくてはと自然と気合が入る。
モールの存在は確実にランピーの心の敷地を半分以上埋めるようになっていた。
「好きだよ、モール」
それは無意識に口から飛び出た言葉だった。
ランピーは自分で自分の口から吐き出した言葉に驚いたようで、思わず口元を手のひらで抑える。
「あ、えっと、これは……友達として好きと言う意味で……」
だからそんなんじゃないんだ、ほんとだよ?
白々しすぎる言い訳を並べて自らドツボにはまっていく自分をひっぱたくことができるなら今すぐそうしたい。
ランピーはモールが盲目であることを知りながらも精一杯の作り笑顔を浮かべた。
「……ランピー、こっちへ」
気まずさで無言になるランピーにモールはいつもと変わらない落ち着いたトーンで声をかけた。
もしかしてモールの気に障った……?
ランピーは悪い想像を頭に浮かべ、緊張で速くなる鼓動を聴きながらモールの隣に立つ。
モールの掌が探るようにランピーの頰を包む。
「モール……?」
突飛なモールの行動にランピーが疑問符を浮かべた刹那、ランピーの頭は引き寄せられ、モールの瞳と自身の視線がサングラス越しにかち合う。
そして唇に柔らかいものが触れる。
「!!」
モールの唇がランピーの唇に重ねられていた。
微かに香るコーヒーの残り香がモールと唇を重ねている事実をはっきりと認識させた。
たった数秒の出来事であったがランピーの脳裏にはしっかりと唇の柔らかさ、コーヒーの香りがインプットされる。
「……モール、これって」
「私も好きですよ、ランピー」
涼しげに恥ずかしげもなく告白したモールにランピーは泣き笑いの表情で呟く。
「ずるいよモール……僕だけ馬鹿みたいじゃない……」
「なんにせよ好きだと言ってくれたじゃないですか。お返しをしたまでです」
モールはもう一度、好きですよ、とランピーに囁き微笑んだ。
……ああ、コーヒーの香りを嗅ぐ度モールの唇の感触を思い出すのだろうなあ。
ランピーは自分の唇を指先で撫で、
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