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跡地

※モブ注意

 死の間際の父が、ふと後悔を漏らした。
「あんな遊び、教えなければよかった……」と。

 兄が行方不明になって、もう10年が経つ。
 たぶん、もうとっくに死んでいるのだと思うが、きっとその方が良いと思う。
 年月が過ぎ去った今も、母は兄を諦めていないの様子を見せるが、父は何か事情を知っている風でもあった。
 そんなとき、今際に父が告げたのは、我が家にとってかなり不名誉な話だった。
 曰く、兄は「血なまぐさい賭け事」に夢中であったのだとか。

 砂漠の闘技場の跡地はひどくさびれていた。
 そこでは剣闘士同士が殺し合う、恐ろしい賭け試合が催されていたのだという。
 なんとも信じがたい話ではあるが、実際に目の当たりにしてみると、おそらく、そうだったのだろうと思わせられる、妙な納得感があった。ある日、巨大な幻獣に襲われ、一夜にして、観客ともども壊滅的な被害を受けたのだという。
 私の兄がその被害の中にいたのかは分からないが。
 世界が滅びるなんて噂が収まったのは、何年前になるだろう。幻獣のうわさもほとんど聞こえなくなって、それよりも追いはぎや野盗の類の方が怖くなっていた。

 あちこちの復興が進んだ今も、闘技場はまだ半壊していて、瓦礫にまみれていた。それでも、何もない砂漠の目印ではあるし、砂嵐を避けるのに一役買っている場所だという。案内人に礼を言って、がれきをまたいでみた。
 闘技場の跡地には、ならず者か、冒険者か、野営をしたようなたき火の跡がいくつかあった。不思議なのは、適当に飲み食いしたようにちらかった人の痕跡は、崩れて荒れ果てたがれきの山よりも幾分かほっとするところである。
「おい、何をしてる?」
 不意に緑髪の男が声をかけてきた。
「金はありません」
 とっさに答えた。男は鼻を鳴らした。
「追いはぎの類ではない。そいつらはもう追い払った」
 どうやら、随分腕の立つ男のようだった。
「何をしに来たか聞いている」
「知り合いを探しているんです」
 男は気難しそうな顔の中に、一瞬だけ怪訝そうな表情を見せた。
「似合わんな」
 火遊びやらなにやら、とにかく危険なにおいのする兄とは違い、平々凡々に生きてきた。これで区切りをつけたら、またそういった男に戻るつもりでもあった。男ははっと息を吐き、くるりと引き返すと、瓦礫をひっくり返したり、おそらく、私が来る前にやっていたようなことをし始めた。
 見つかるのはぼろぼろの鎧の欠片や、風化した布の切れ端だった。この広い闘技場で、誰かを見つけようなんて言うのは無理だ。
 男は極端に寡黙だったが、かと思えば、崩れそうなところを探していると「そこは危ない」だとか、「素人が近づくな」だとか警告してくる。
 私は、男が漁っているのが、闘技場をぐるりと取り囲む……リングの中を中心としたものであることに気が付いた。剣闘士は全滅したと聞いていたが、もしや……。死んでも死にきれない、幽霊の類であるのだろうか。
 それにしては気配ははっきりとしていたし、恐ろしいものではなかった。
「見つかりましたか」
「いや……」
「見つかるといいですね」
「いや、見つからんだろう」
 男はどこかさっぱりした様子で言いきった。
「お前も諦めたらどうだ……。どれも同じようなもんだ。適当に二つか三つ、持って帰れ」
「そうします、あなたは」
 男は答えなかった。ただ真剣な表情で瓦礫を漁っていた。

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