ジャンル:北斗の拳 お題:私が愛した会話 制限時間:1時間 読者:40 人 文字数:2384字 お気に入り:0人

荒野で水を求めていることに気付いた人

時折交わされる言葉に、む?と思う言葉がある。
一種のデジャヴのようなもので実際にしたことが無い会話だろうかと考えることもあったが、その感覚は例えば学校にいる時、例えば旅先で老夫婦の交わしている会話がたまたま聞こえた時、例えばテレビの向こうの芸能人だの俳優だののトーク内容など。羅列していくとあまり共通性が見出せない。
半年に一度必ず二週間以上の大型連休を取らされる会社に就職した結果、その間に愛用の大型バイクで日本各地を巡る趣味を持つようになった俺だが、日本全国どこに行けど、そこそこの確率でそう思うことがある。
「兄者、どうかしたのか」
深夜、自宅でぼーっとしている時にすぐ下の弟が怪訝な顔で何をするでもなく居間のソファに座っている俺に、心配の色が見える瞳で語りかけてきた時も、そうだった。
「お前にも何度か話しただろう、俺が昔からよく感じているデジャヴのことだ」
「あの事か、だがあれは医師には異常はないと言われていたのだろう」
「俺が覚えているのは脳の不安ではない」
明確に俺はそう断言できる、俺の感じているこれは確かにデジャヴと呼ばれるものなのだろう。だがその引っ掛かりはすぐに消えるものではないかと俺は思っていたのも相まり、今の俺はこれをただの脳の異常だけと思えなくなっていた。
「俺らしくもなく、これはスピリチュアルとやらの関係分野かもしれんと考えていただけだ」
「ほう?」
「つまり今の俺は生まれ変わった存在であり、俺には前世と呼べる何かが存在し、そこで聞いた会話が今になっても記憶の深いところに眠っておる、ということをな」
「想像以上に兄者らしくないな」
それは俺も思っている。生まれて数十年、高校に通うようになるころには現実主義者に落ち着き宗教的な思想は信じなくなっていた俺としても、自分のその言動は信じられたものではない。
「……だが兄者、一つ聞きたいのだが」
「何だ、ラオウ」
「……仮に兄者が、真に転生した人間であると思うのであれば、転生前の兄者はどういった人物であったと思う」
もしや俺自身のことに集中していたせいで気付けずにいたが、この弟も眠いのだろうか、否、それは可能性としては薄いだろう。基本的に弟は規則正しい生活を送っているが、その気になればいくらでも起きていられる体質だということを俺は知っている。そうなるとやはり弟はかなりしっかりとした意識でこういったことを聞いていることになる。俺と似たのか現実主義の方が強いラオウにしては珍しいことのように感じられた。
「まず、よく引っかかる言葉は「愛してます」「愛してる」という言葉だ、これは良く分からんが、一番引っかかることが多い」
「うむ」
「引っかかると言えど、この感覚はいいものだけではない。不愉快だ、目障りだと思うこともあれば、一方で苛立ちを覚えることもある。あとは……乾いている」
「今日は雨ではない、空気は乾いているだろう」
「違う、空気ではない。妙に乾いた気分になるのだ」
「それは、分からんな」
それは日照りでひび割れた大地を想起させるような、湿度の低い夏の大空を見上げたような感覚を覚えることだった、乾いているが故に何かを求めたくなるような、渇望で合っているのだろうかこれは。
「兄者、連休は来週までだったか」
「急にどうした」
「兄者の都合さえつけば、ついてきてほしいところがある」

兄弟そろってツーリングなど何年ぶりだと思いながらもラオウに先導されて辿り着いた場所は、隣県の中心部からいくらか離れた住宅街の大きめの一軒家だった。
「俺と、もしや兄者の知り合いかもしれぬ」
「ラオウ、何度か言った筈だが俺にこの地域に住んでいる知り合いはおらん筈だ」
「否、もし兄者の感覚と俺の勘が間違っておらねば、兄者はこの家の二人と知り合っておる筈だ」
ドンドンとインターフォンを鳴らさず扉をこぶしで叩いた後、しばらくしてから屋内から決して軽くはない足音が聞こえてくる。
「ラオウ、流石の俺も何度も言っているはずなんだが呼び鈴は……」

飛来した記憶の彼方、確かに俺はこの男の顔と今までのデジャヴに結びつきがあるようでなかったことを思い出し、あれは俺が生前に求めていた言葉を、会話としてある筈ない記憶として誤認していたことに気付き、愕然としてしばらくそこに立ち尽くしていた。ラオウに促され居間の椅子に腰を下ろされてようやく、一言だけ喋る気力が戻った。
「いつだ?」
「きっかけとしては俺が高校の頃、陸上の大会で相手校のマネージャーをしていたヒョウに遭遇したことだ」
そこから色々あった。とだけ簡潔にまとめたラオウは、不安と怪訝が混ざった顔で終始俺の動向に目を向けているように思えた
「カイオウ、俺とて聞きたいことはいくらかある、だから最初にこれだけは聞かせてくれないか」
俺たち用の茶を運び、向かいの椅子に腰を落ち着けたヒョウは、凪いだ優しい表情と目の色で、どうしてもこれを聞きたかったのだと前置きした上で再び口を開いた。
「カイオウ、お前は、愛を求めれるようになったか」

『愛してまーす』『愛が感じられない、やり直せ』
『それでも俺は、お前を愛そう』『そうね、今はあなたと歳を取れるのがうれしいわ』
『最後に、――――さんは愛を信じますか!?』『ふははは!!愛を無くして何が――――か!!』

「……求められては、おそらくいまい」
「では」
「ただ、間違いなく、渇望してはおるだろうな」
今の俺ではこれが限界だった、転生までして何十年も経てど性根から失われた素直さは戻るものではない、煙に巻くような言い方が身に付いたままだ。だがその事を二人もくみ取ったのだろう、空気が幾分か緩み、おそらく俺はそれらをもう得ているのだろうとようやく気付いた時、コップの中の氷がからりと音を立てた。

同じジャンルの似た条件の即興二次小説


ユーザーアイコン
作者:丸餅まるへい ジャンル:北斗の拳 お題:フォロワーの表情 制限時間:15分 読者:365 人 文字数:580字 お気に入り:0人
ピロンピロン、と何度も電子音が響く。あまりに頻繁に鳴る電子音が気になったヒューイが音のする方へ向くと、どうやらジュウザの携帯から聞こえる音らしい。「なんださっき 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:丸餅まるへい ジャンル:北斗の拳 お題:いわゆる殺し屋 制限時間:15分 読者:725 人 文字数:247字 お気に入り:0人
「俺が火の番をしておくから、お前も休むといい」そう言葉をかけると、ケンシロウはいや俺は、と言葉をこぼした。「お前の方こそ休んでおかなくていいのか、レイ」「どうも 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:丸餅まるへい ジャンル:北斗の拳 お題:永遠のラーメン 制限時間:15分 読者:396 人 文字数:443字 お気に入り:0人
『見て下さいこの行列!今日もこの店の名物、名付けて永遠のラーメンを食べるために多くの人が詰めかけています!』なんとなしに点けられたテレビの液晶には、小さなラーメ 〈続きを読む〉

楚兎の即興 二次小説


ユーザーアイコン
作者:楚兎 ジャンル:北斗の拳 お題:私が愛した会話 制限時間:1時間 読者:40 人 文字数:2384字 お気に入り:0人
時折交わされる言葉に、む?と思う言葉がある。一種のデジャヴのようなもので実際にしたことが無い会話だろうかと考えることもあったが、その感覚は例えば学校にいる時、例 〈続きを読む〉