ジャンル:暗殺教室 烏イリ お題:小説家の夜中 制限時間:30分 読者:105 人 文字数:1721字 お気に入り:0人

オリガさんは意地悪

「オリガ、オリガ。ちょっとこの文章、チェックしてくれんか」
「どうしたのロヴロ。あなたがパソコンでなく、万年筆を取り出して書き物をするなんて珍しいわね」

ナイトガウンを羽織って、もう寝る準備は万端といった様子のオリガが、なにやら興奮した様子のロヴロに呼び出されたのは深夜12時を回ったころだ。

「いや……ほら、今日の昼にイリーナから届いたろう、招待状」
「ええ、ついに来たわね。ミスター・カラスマとの結婚式の招待状が」
「そこにあったじゃないか、『花嫁の父親代理』として出席してほしい、と」
「ええ、『花嫁の親族』としてあの子の花嫁姿が見れるなんて光栄なことだと、ふたりで喜び合ったわね」
「おれは日本の結婚式の作法や流れはよく知らんが——、花嫁の父親が、スピーチをすることもあるんだろう?」
「……確かに、そういうこともあると聞いたことがあるわ」
「ならば、そのスピーチの原稿を考えておこうと思ってな」

珍しく、どこか興奮した様子のロヴロを尻目に、オリガは苦笑してわずかに肩をすくめた。
「……式は半年以上も先の話よ。気が早いのではなくて? しかも、べつにイリーナから頼まれているわけでもなかったじゃない」
「まだプログラムを組んでいないだけかもしれないじゃないか。おまけに、出席者はほとんどが日本人だろう。日本語での日常会話はなんとかなっても、日本語でスピーチなんぞしたことはないからな。早めに原稿を作って、練習しておくに越したことはないだろう?」
「まあ、……あなたがそう思うのであれば」
「で、オリガ。とりあえず第一稿としてそれを書いてみたのだが、どうだろう。まず文章としておかしくないかどうか、日本語のスピーチとして適当かどうか、感想を聞かせてくれんか」
「……感想、ねえ」

手渡された用紙は、明らかにスピーチにするには長すぎた。しかもロヴロに長年連れ添った人間であるオリガ以外ではまず読めないような、推敲と修正と迷いと喜びと寂しさと、あとほんの少し烏間に対する怒りと嫉妬が混じり合った、あちこちに矢印が飛びペンで塗りつぶした跡の残る、ひどい文章が端から端まで認められていた。しかもそれが10ページぐらいあった。さっと黙読した限りでも、イリーナの不幸な生い立ちに触れ、偶然彼女を見つけたオリガの行動に触れ、その後、弱いを必死で押し隠し生き続けた彼女の強さと切なさに触れ、烏間との出逢いに触れ——と、彼女の現在までの人生をおさらいしたかのような、ちょっとした大作になってしまっている。

——ああ、この人のこの不器用さが、わたしはたまらなく好きなのよねえ。
手渡された用紙を丁寧にたたむと、オリガはにっこりと笑いかける。
「……とても感動的で心のこもったいいスピーチだわ。でもロヴロ、これじゃ長すぎるんじゃないかしら」
「そ、そうか」
「でも、おそらく方向性としては間違ってはいないはず。ここから文章を削って、いっしょに推敲していきましょう?」
「そうだな。オリガ、迷惑をかける」
「いいえ。わたしはあなたの妻ですもの。これぐらいお手伝いさせてちょうだい」
「すまん。おまえは本当に、できた妻だよ」

照れ臭そうに首の後ろを掻いてみせるロヴロを見ながら、オリガはもう一度にっこりと微笑んだ。
——おそらく、こんな長ったらしく畏まったスピーチは求められないし、なんなら「ガイジン」の見た目をフル活用して、たどたどしい日本語で一言二言話すだけでも格好はつくはずだ。
「そうだ。あの子の生い立ちについてはあまり多くを語ってボロが出てしまうといけないから、もう少しあなたの想いを話してあげたほうがいいんじゃないかしら。会場にいる全員が全員、あの子が元殺し屋だって知ってるわけではないでしょうし」
「そ、そうだな。そうするか……」
再び万年筆のキャップを開けたロヴロが腕組みをはじめる。

書き損じも、推敲前の下書きも、全部とっておいて新居に送りつけてあげようかしら。
そしたらイリーナが早々にホームシックにかかって、新婚のカラスマを置いてうちに帰ってくるかもしれないわね。
ひそかにそんな企てをするオリガは、もう一度にっこりと笑った。

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