ジャンル:暗殺教室 烏イリ お題:幼い土地 制限時間:30分 読者:50 人 文字数:1505字 お気に入り:0人

繋いでいくいのち

「人を育てる——……か」
生徒たちの乗ったバスを見送ったイリーナが、ぽつりと呟いた。
「あいつからのアドバイスブックにあった言葉、か」
吹けば飛びそうなほどに小さな言葉が届いていたのか、烏間がそれを受けて答える。
「そうね。それでいうと、本当に得難い経験をさせてもらったな、って思うわ」
「……そうだな」

次の世代に、先人たちが編み出した生きるための技術を伝えていくこと。次の世代に、自分が見出した生き方のヒントみたいなものを伝えていくこと。この「暗殺教室」に関わらなければ、おそらく一生関わることはなかったであろう「仕事」。それを終えた今、イリーナはとても清々しい気分で生徒たちの乗ったバスが消えた先を見つめている。
「こんなあたしでも、教えられることがあった。……継いでいけるものが、教えられるものがあったのね」
そう言って、泣きはらした目のままわずかに微笑むイリーナからふいと目をそらして、烏間は言った。
「……お前にはまだまだ、繋いでいけるものはたくさんあるだろう」
「そうかしら」
「たくさん、あるさ。お前の経験は必ず生きると、防衛省入りを打診した時に言ったろう」
「そうかしら。……そうだといいわね。そう、願うわ」
「それに……」

そこで烏間はしばらく言葉を切った。まるで、なにかとてつもなく言いづらいことを言うかのように。

「……命だって、繋いでいけるだろう?」

「……いのち」

小さく呟いて、イリーナは顔を赤らめた。が、すぐにニヤリといつもの笑みを見せ、烏間の顔を覗き込んでみせる。
「やぁだ、それってカラスマからの遠回しなお誘いかしら。いいわよぉ、これからどっかのホテルにしけこんで一発どころか十発でも——」
「イリーナ、お前はすぐにそうやってシモの方向に持っていくのをやめろ」
烏間もいつもの、イリーナの下品な冗談に応対するときのような呆れた顔を見せる。だが、えへんと一つ咳払いをして、それから静かに言った。

「……お前の大好きなその『一発』の本来の目的は、快楽を得るためじゃないだろ」
「……」
「もちろん、相手を籠絡するためのものでもないし、相手を殺すためのものでもない」
「……」
「本来は、子をなすために行う行為だろう」
「……そうだけど」
イリーナの顔はますます赤くなり、声は横にいる烏間がかろうじて聞き取れるレベルぐらいまでに小さいものになる。

「……でも、あたし、そんな……自分の子供をつくるためのセックスなんて、したことないわ」
「まあ、そうだろうな。おれだってない」
「……あたしが、そんなこと……していいのかしら。人を殺してきた、あたしが、そんな……」
「……あいつが言っていた『人を育てて欲しい』には、その意味だって入ってるだろう。お前はあいつの遺言を違える気か?」
「でも……でも、」
「……今すぐに、とは言わん。あいつだって、いつかは、と言っていたんだ」

顔を真っ赤にしてうつむいたイリーナの手を取り、烏間はまっすぐに前を向いた。
「おれは、お前に次なる命を繋いでほしいと思う。できることならその相手がおれであれば、とも思う。返事は別に今じゃなくてもいい。考えておいてくれ」
うつむくどころか、今にもしゃがみこんでしまいそうなイリーナは、片手で顔を押さえながら消え入りそうな声でようやくしぼりだした。
「……ばか」


そういうの言うんなら、順番間違ってるわよ、ばか。
つっかえつっかえイリーナがそう言うのを聞いて、ようやく何かに気付いたように、烏間も顔を赤らめた。咳払いをもうひとつして、イリーナに正面から向き直る。

「……イリーナ。おれと、」

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