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槍弓


槍弓


「ヘマすんじゃねーぞ」
「君に言われたくはないな。あの魔獣と違わないその猪突猛進ぶりには驚かされる。…ああ、君は猪ではなくフリスビーに飛びつく犬だったかね?」

赤い弓兵の減らず口は相変わらずで、思わず眉を顰める。
形の良い唇が歪み、嘲笑っているのが分かる。
良い気はしない、しかし悪い気もしない。
敵か味方か分からないどっちつかずの立場であいつとやり合っていたあの時とは随分と違う。
マスターも、見据える先も、目的も同一とした今は気楽でいい。

「っ、おい! そっちへ向かったぞ!」
「…わかってらぁ!」

ぼうっとしていたつもりはなかったが、気づけば猪がこちらに突進してきている。
なんてことない、この槍は獣ごときに折れるものではない。
真正面から槍を投げ、猪の眉間を穿つ。
槍と大差ない鮮やかな赤色が猪から飛び散った。

「…ヘマすんじゃねーぞ、とは誰の台詞だったかね?」
「あぁ?倒したんだからいいじゃねぇか」

あれをアーチャーと呼んだのは一体誰なのだろう。
両手に剣を持って猪と戦いながら軽口を叩くあいつはとても勇ましかった。

マスターは言う。

俺がマスターになったばっかりの頃、兄貴より来るのが早かったんだよね、エミヤさん。
身体はムキムキで、料理もできて、おまけに強いんだ。
向かうところ敵無しって感じだよね。と。

それを話半分で聞いていた俺は、生返事で、そーかい、とだけ答えていた気がする。
そんなこと、お前さんより知ってんだよ、と向けるべきではない嫉妬の炎がちらりと燃えた。
くだらない、なんてことない、見苦しい嫉妬だ。
あいつは気付かない。
あいつが被った多くの血も、俺の赤い槍も、俺の嫉妬の炎も。
すべてあの赤い外装が打ち消してしまう。
それでもいいと思った。
あいつの心に、まだかの騎士王の名残があってもいいと思った。
どれだけマスターがあいつを慕っていても、それをあいつがどれだけ喜ばしく思っていても、変わらない事実が俺を保たせる。

​────体は剣でできている。

あの詠唱のように、あいつは強く、剣のように鋭い。
いくつもの世界を超え、正義の味方として奔走したあいつは、誰よりも逞しい。
ふわりと飛び上がり、敵に向かって弓を引く彼は美しい。
あのひょろっこい身体がどうなってああなったのか、今思うと愉快で仕方ない。
猪突猛進なほどに勇敢なのは、お前の方だと言ってやりたい。

またひとつ、あいつが敵を穿つ。
エミヤさんかっこいい!最強!
野次のようにマスターがあいつに声をかける。

けれど。

けれどその勇敢な体を、穿ってやったのは俺なのだ。
俺は、あいつの心臓の温度を、一生忘れられない。

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