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【元気がないおそ松兄さんの話】

「なぁなぁ、三島由紀夫って誰だっけ?」
「はぁ? 知るかよ、誰だよ」
「俺の記憶だと、歌手らへんだった気がするんだよなぁ~」
「じゃあそうなんじゃないの」

 何時ものような会話。

「そう言えば最近テレビでやってたんだけど、税理士がストーカーに殺されたらしい」
「へー…ご愁傷さま」
「俺じゃねぇし! 云うならテレビに云ってよ!!」
「…それテレビに云うなら本人の家族に……いや、何でもない」

 何故、ぎこちなく感じるのだろうか。何故、こんなにも寂しく感じるのだろうか。

 頬に涙がつたう。
 あぁ、どうしてこんなにも胸が苦しくなるのだろうか。嗚咽で泣いているのがバレていないだろうか。
 あぁ、僕がこんなにも胸が痛いのだから、あの人はもっと痛いのだろう。
 この痛い思いは何時、終わるのだろうか。
 もう無くなってほしい。
 あの方を忘れたくはなかったが、この気持ちは無くなってほしかった。

 すると足音がした。
 正確に云えば床が軋む音。

 この涙を見たらなんと云われるだろうか。というかその前に涙を見られるのが嫌だった。
 パーカーの裾で涙を拭った。けれども涙は止まらなかった。洪水を起こしているようだった。

 肩に暖かい物が掛けられる。

 後ろを振り向くと案の定、あの人、おそ松兄さんだった。

「何泣いてんだよ、一松…。

…って、云いたい所だけど、流石にまだ立ち直れねぇよな、お前は」

 何てったって、優しい奴だもんな。そう云ったおそ松兄さんの顔は酷い様だった。隈が酷く出来ていて、顔もやつれている様だった。

「おそ松兄さんこそ、酷い顔、してるよ」
「…んあーやっぱりバレる?」
「バレバレ」

 あちゃー、と顔を覆う姿は本気で云っていないことがわかる。

「やっぱりなー…うん、やっぱり俺だってしんどい時あるんですよー」

 その言葉に深い意味はないのだろう。けど、やはり長男としての責任、重圧があるのだろうと思う。

「…いつも、ありがとう」
「おっ、なぁにー珍しいじゃん。どったの?」
「別に…何となく」
「全くー素直じゃないんだから~」

 そう茶化すおそ松兄さんだったが、その瞳の奥は辛そうに見えた。

 何もしてやれない自分が酷く、恨めしかった。





 それから二月ほど経つとやはり慣れは出てくるらしく、もう流石に毎日は涙は出なかった。しかしその分、おそ松兄さんのやつれ具合は酷くなる一方だった。

「もう! 流石にご飯食べなよ!」
「そうだぞブラザー。この容態は少々放っておけないな」
「いっぱい食べる!!」

 そう兄弟たちは心配をするが、おそ松兄さんは「悪い」「食欲ない」の言葉で通す。
 今ではもう、水しか飲んでいないんじゃないか、と思うほど。どっかの三男見たいにガリガリで、立つことすら億劫そうにする様だ。

 けど食べる時は食べる。
 三男の声かけがあれば、どっこいしょ、といった風に重い腰をあげるのだ。

「ほら、さっさと食べろよ」
「あー…はいはいわかりましたよーだ」
「はいは一回」
「はーい」

 いつも居てくれれば良いモノを。この兄は毎日居ないのである。

 たまにふらっと帰ってきては、へらっと笑ってみせご飯を食べるのだ。けどその日にちは決まっておらず、本当にたまに来るだけだ。

 就職したら云う筈のこの人が云わない、ということは、まだ受かってはいないのだろう。

「…やはり、チョロ松の声かけがあると食べるんだな」
「…そうだね、いつも居てくれればいいのに」

 本当にいつも居てくれれば良いのに。そう願うが、僕は叶わない事を知っていたんだ。


「だって、チョロ松は_____」

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