ジャンル:刀剣乱舞 お題:最強の男の子 制限時間:15分 読者:47 人 文字数:3382字 お気に入り:0人

電子の海折り返し5 ※未完







「今日はあったかいし、小春日和だね」
「主、それは冬の季語です」
「そうなの?ふふ、平野は物知りだね」
「平野、主は分かっててやってる」

そうだろう?と彼、平野を挟んで左側に立つ鶯丸が視線で投げかけてくる。
せっかく人が他人を褒めたものを。
ああ、そうだとも。温かい春っぽいなんとか日和なら小春日和しかないじゃないか。語呂がいいし。それでいいじゃないか。

「そうなのですか?主」
「なんで、バレたんだろ」
「今は梅の景趣だからな」

舌を出して誤魔化す。そうすると鶯丸は梅の景趣を見やってそう言った。つられて皆そちらを見る。紅白の梅が山の斜面一面に広がる光景は美しく、それらの堂々とした立ち振る舞いが確かな春の始まりの訪れを告げていた。ぽかぽか日差しが眩しくあたたかいのだ。ほんとにまぶしい。眩しさに負けて目を細めていたら平野が生真面目に質問をし始めた。

「鶯丸様は梅の景趣ですと勘が優れるようになるのですか?」
「平野、そいつテキトー言ってるだけだよ」

意趣返しと言わんばかりに鶯丸が何か言う前に言葉を挟む。こいつはいつもテキトーばかりだ。何が命は大事にしろだ。刀のくせに。よくわかんない愚痴が頭の中を駆け巡る、不満だ。不満しかない。なんで私と平野の会話に入ってくるのだ。あほばかたこ。

「バレたか」
「大変だね、平野。テキトーな人たちに囲まれて」
「いえ、僕が未熟なだけです。それにお二人は尊敬する主と鶯丸様です」

案の定の回答に態とらしいくらいの呆れ顔を私はしているのに、平野は変わらず真面目な顔をしてそんなことを言ってのける。それがなんだか面白くて、ふと彼はどんな顔をしているだろうと視線を投げると、鶯丸は鶯丸で変わらずこちらを見ることはなく、今も梅を見る目元は髪で直接は見えず、口元は微笑をたたえていた。
だから眩しいんだって。私は気づかないふりで平野の頭をぐしゃりと撫でた。平野は自分の至らなさを照れるように笑った。

どこぞで猫がにゃーんと鳴く。間抜けなやり取りをする私たち、いや、私を馬鹿にするような馬鹿みたいな間抜け声で。





そんな声ももうしない。

動物も寝静まる深い宵闇。今は昼間の太陽の代わりに、月が梅を照らしている。満月でもなんでもない、九夜くらいの半端な月。

今日の昼間にこの場所で起きた

温かい季節が生む温かい風の中の温かな景色

を思い出していた。
それらは、実際に触ることができるってだけのただの"張りぼて"に過ぎない。

「よっ、と」

梅の景趣の欄干に座る。足は空をかき、手を離せばこのまま"すとん"と落ちて行けそうだ。足から落ちていく様を思い浮かべて、とんと滑稽で笑いが漏れた。こういうときは頭からが基本だろう。サスペンスで犯人に落とされる被害者の映像が頭をよぎる。落とすのは被害者への情欲か、怨みか、恋か。


本丸の主が望めば暦に関わらずここの景色は春にも冬にもなる。2205年のこの世界、どこまでも電子世界であった。戦場も、生活も、風景も、何もかも。手を伸ばした先は闇。何も掴むことなく虚空が広がるのみ。そこはどこでもない、理の存在しない海。座標軸が定まらなければ漂流はただの地獄。
私たちの戦場はその中の座標の一つに過ぎない。なので多重世界が混在し、数多もの審神者と歴史修正主義者とのいたちごっことなっているのである。まあ、わかりやすく言えば、バグだ。敵は誰にとっても正しい"この世界軸においての"バグを起こそうとしている。

「この世は地獄です、ね。まあ間違ってないな」
「なんの話しだ?」
「!」

驚いて声の方を振り向く。そこにはジャージ姿の鶯丸が立っていた。気配なく私の後ろに立つのはやめて欲しい。撃ち抜くぞ。

「びっくりさせないでよ、って、うわあ!」

欄干についていた手を滑らせ、重力に従い頭が先に落ちようと、腰を中心に円を描いて下に引っ張られる。あーあ、下に何かクッションになる木とかあったかなあとぼんやり考えつつ、ふわりとした感覚に包まれる。
私を落とすのはただの不注意で、私を落とした相手はウグイスだった。どんなサスペンスよりも間抜けだ。

「!?」

肩越しに見る鶯丸の顔は目をまんまるに見開いた表情で口を叫びそうなほどに開けていて手をこちらに伸ばしかけている。
こんな状況なのに彼の初めて見る顔に満足する自分がいて嫌気がさした。



手が頭に置いていかれてその場に残るように、ふわりと自然と空に伸びた。


今日も月は綺麗だ。





いつ着地が来るのか、浮遊感と衝撃に備えて目を瞑っていても、不思議とそれらがやってく、代わりに何かに抱えられどすんと音がした。
永遠とも感じられる時間の後に声がする。

「大丈夫か、主!?」

今まで聞いたことのない焦りの混じった声。嘘だろ、やめてくれ。

「え、あ、うん。鶯丸のそんな顔初めて見た」

テンパって本音が漏れた。

「馬鹿なことを言ってないで、命を大事にしろ」

鶯丸は私の伸ばされた手を腕ごと引っ張り上げて、その反動で私を抱え込んで床に仰向けに倒れていた。

やめてくれ。それじゃあ私を心配しているみたいじゃないか。私を抱きかかえる腕の震えなんて気づいてはいけない。通常を装った声の震えなんて。そもそも声が近い。焦った吐息が聞こえるんだよちくしょう。ちくしょう!刀のくせに。テキトー言うな。

「っていうか鶯丸そんなに速く動けるんだね!まあ刀振るってる訳だしこれくらい当たり前か!いやあービックリした!妄想が現実になるかと思った」

そう言いつつ距離を取ろうとしてもびくともしなかった。ただ一言。

「落ちるから離れては駄目だ」
「いやもう落ちないって。バカじゃあるまいし」
「主は馬鹿だ」
「いやそんなストレートに言うもんじゃ」

ないよと言おうとした。そしたら抱きかかえられたまま内側に座り直され、目を直視してきやがる。

「一瞬でも思ったのだろう?ここから落ちゆく自分を。そして無様に死んでいく自分自身を」

ーーバレた。バレている。いつも通りにそんなことないよと笑って茶化せばいい。いつも?いつも通りに?いつも、どんな顔をしていただろう?ちゃんと笑えていただろうか。

「そんなこと」

無理だ。負けている。圧倒的に負けていた。向こうはこちらを真っ直ぐにこちらの目を見ることが出来ているのだから。




その眼差しは心配とともに確かな怒りを孕んでいた。

「鶯丸……怒ってる?」
「怒ってはいない」
「え、怒ってるよね?」
「怒ってはいないが……そうだ、命は大事にしろ」

取ってつけたようにいつもの台詞を言う。

「なんで分かったのかなー」
「もう忘れたのか、主。やっぱり馬鹿なのかもしれないな。忘れっぽさが大包平並だ」
「むう。そんな馬鹿正直じゃないぞ」

鶯丸は目を開き驚いた表情をしている。なんだなんだ。何がそんなに驚きなんだ。

「主は……いや今はいいか」
「なんだってばよー」
「そう、今は、今は梅の景趣だろう?紅梅に鶯だ。つまりこの景趣のときの俺に分からないことはない。昼にも伝えたはずだが?」

何が伝えた、だ。馬鹿なやり取りに忘れられたのか腕の震えはなくなった。

「(こっちの気持ちなんて何にも知らないくせにどの口が)ってか近い!」
「また主が落ちては困るからな」
「いやまだ落ちてないし」
「せっかくの美しい顔が変な顔しているぞ」
「鶯丸なのに世辞だけが上手くなっていく」
「俺にそんな器用なことが出来ていたとは初耳だ」
「あほ!ばか!景趣なんて明日になったら変えてやる!!」
「楽しみだな。次は桜か」


「いや、張りぼてにも匂いはあるものだ、と」



「大包平様、主様はあれで表に出してないつもりなのですよ」
「どこかの鶴丸じゃないが、驚きだな。主の想いが通じだからこそあいつもあそこまで軟弱化したというのにな」
「ええ。鶯丸様の表情は本当に柔らかくなりました。もちろん主様も。鶯丸をちらと見て微笑むお顔は本当に柔らかく春がほころぶようなんです」
「平野。そこは花がほころぶ、じゃないのか?」
「ふふ、大包平様。これで良いのです。主様ならこうおっしゃいますから」

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