ジャンル:UTAU_GL お題:無意識の洞窟 制限時間:1時間 読者:17 人 文字数:3573字 お気に入り:0人

幸福討論会




無意識というのは、時として人を変な方へ連れていくことがよくある。


「なにしようとしてたんだっけ」

背もたれに全体重を掛けてぼんやりと呟かれた言葉は、それさえもが意味をなさないほど気だるそうに空間に放たれた。

そんな彼女を横目で見る傍ら、洗濯物が干せないなぁと外の雨音を聞きつつ今日何をするか考える自分もまた、何も考えていないも同然なくらい思考の堂々巡りを繰り返す。

「デフォ子、今日なにしたい」

先程とさして変わらぬ声色で放たれたそれは、少し背もたれから体を前へと倒してこちらに手向けられる。ぬるりと流れる赤い瞳が、興味の対象を探りあぐねるようにくるりと回っていて。

彼女の座る椅子の隣の椅子まで行き、自分もそこへ腰かける。ついでに持ってきた膝掛けを机の上に掛けると、自分と共に彼女の頭をぐいとそこれ押し付けた。

「未来の話とか、いかがかな」

「ん、いいね」

こんな何もしたくない日にはそのくらいすっとんきょうな話の方が合うだろう。自分で振った話題にも関わらず何から話していいかを考えていると、思いがけず彼女の方からその候補を話し始めた。


「僕たちは、一体いつまでこうしていられると思う?」

こうして、と再度呟いた言葉の真意を見透かすことの出来ないまま、少しばかり無言の時間が過ぎていく。こうしてというのはこの何気無い話し合いの場か、それともこの生活そのものか。

いつからか惹かれ合い、いつからか愛し合い、そしてそれをお互いに認識して今ここにいる現状には、今のところ少しも狂いはなく、微妙な気分や考えの差こそあれ明日も明後日も、永久に続いていくような気はしている。
ただそれはきっと、自分の根幹は機械で出来ていて、未来を予想するにはこれっぽっちも役にはたたないようなプログラムのせいなのかもしれないが。

「つまり、どういうこと?」

平静を装いながら彼女に問うも、少しばかり頭には不安が募る。
先の見えない、心の読めない不安。
こうして安寧の時を得るまでに彼女との間に幾度となく交わされたこの不安に、まさかもう一度出くわすとは思いもしなかった。

彼女はくしゃりと笑い、全部だよ、とこちらへ答えを投げ掛ける。それでもまだ黙っているこちらに対してなにかを察知したのか、彼女は眠そうな瞳と口許から言葉を紡ぎ始める。



「僕は今幸せ者だよ」

「うん」

「もう遠い昔、君に助けられて、生きる希望をもって、そして、こうして一番大切な存在を見つけて、今ここに生きている」

「うん」

「もうありったけの幸せを神様からもらった僕は、これ以上なにも望むものはないよ」


くたくたとした喋り方ではあるが、普段の明るい姿からは想像も出来ないほどの話が彼女から飛び出していく。そもそもそのような思いだったことは端から知っているが、その結末がこの先の望みすらもういらないということであるというはあまりにも早すぎる話ではないだろうか。

「もうなにも、いらないの?」

「うん、君と、歌と、この日々が永遠に続けば、僕はそれでもうなにも要らない」

必要がないんだ、とまた笑う彼女の目は、どこかの海に沈むようにどこにも焦点が合わないままこちらに向けられている。

私はなにか、彼女の無意識の思考に思いがけず土足で踏み入れてしまったようだ。


「私は、」


なんとかして自分の意見を言おうとしたが、少し声をあげただけでもう詰まってしまった。
なぜなら彼女との考えはほぼ変わらない。私だってこの安らかな日々が永遠に続けばそれでもうなにも要らないのだから。

でも、なにかまだ抵抗できるはずだと今までの思い出を巡り、走馬灯の中から必死に話題を探し出す。


そして、彼女に様々に話をした。

初めて出会って、仲間というものを見つけたときのこと。
恋という感情を初めて芽生えさせたときのこと。
満たされるということがこんなにも安心するということ。

それらを話した上での未来を、まだ想像できていないこと。


「…私はまだ、この一瞬を生きていくのに必死だから、明日のことなんて考えたこともない」


「僕も同じだよ」

みんなそうだ、と言った彼女の目が、また焦点を遠くにして天井を仰ぐ。
まるで、なにも見たくないかのように。



「じゃあ、一体テトは、何に怯えているの?」


は、と焦点をこちらの目に合わせたテトの顔から、微笑みが消える。同時に限りなく平静を装いながら少しだけ眉をひそめ、苦虫を噛み潰したような顔をこちらへと投げ掛けた。


「別に、なにも、」

「私は怖いこと、あるよ」


へぇ、と言った彼女に、自分の感情を少しずつ紡ぎ出す。

自分がいつ壊れるか分からないこと、
君が誰かに心移りをしないかいつも気にかけていること、
そして、一緒にいることで不幸にさせてしまわないかいつも怯えていること、

君を好きになったが故に、君から好かれたが故に、今までとは違う種の考えが頭の中に湧き出していること。

それが、自分の中での恐怖だ。

それを聞いた彼女は、少しその言葉をかみ砕き、頭へと送りだすと、ずい、とこちらへ顔を近づけてきた。


「デフォ子、キスして」

「いいよ」

して、という発声とは裏腹に、こちらの目を手で塞いで彼女の方から唇をあてがってくる。
柔らかく、湿ったそれを啄むと、喉の奥が反射的に締まり、酸素を求める動きが始まろうとする。

「っ、は」

「まだだめ、」

いつもなら短いその時間が永遠にも感じるほど、彼女はこちらの唇を求めて離さない。
まるで子どもが母親の乳首を求めるように、生きる糧を望むように。

いつまでこうしていただろうか。

さすがに彼女が音を上げ、ぜいぜいと肩で息を吸いながらばたりと膝掛けの上へ倒れ込む。
紅潮した頬と少しばかりの涙で濡れた瞳が、今度は真っ直ぐにこちらを見つめてきた。


「デフォ子、君は僕のこと、好き?」

「何を今さら」

「嫌い?」

「そんなわけないだろ」





「じゃあ、僕と一緒に死んでくれる?」




思いがけない質問だった。
でも、反射的に言った答えは、もちろんイエスだ。


それから一時の間をおいて、彼女があははと声を上げる。呆気にとられたこちらを置き去りにして、いつもの屈託のない笑顔に戻って口を開く。


「よかった、」

これでいつでも死ねるね、と放つ彼女に、そんな予定があるのかと聞くと、小さく首を振る。ではなぜそんなことを聞いたのかと問えば、最近のぼんやりした時間の事を話し始めた。



「僕、もう死ぬんじゃないかっていつも思うんだ」


幸せになりすぎたから、と言ったついでに様々な想像もこちらへと伝えてくる。
自分は食べ物と水がなければ生きられないが、こちらは最悪それらがなくても生きられるために、何かあったときには分が悪いと思ってしまったこと。
機械と生き物では、意外と自己修復性のある生き物の方がメンテナンスの無い世界では何倍も長く生きられること。

そして、その気になればこちらはすべて彼女のことなんか忘れられてしまうということ。


「無意識に洞窟の奥に追いやられるみたいに、なんだか変な方向に考えちゃうんだよね」

だからさっきちょっぴり殺そうとした気がする、と眉を下げて言った彼女は、先程とは違う種類の涙を目に湛えていた。

「テトに殺されるのなら本望だな」

「僕もだよ」

でも、それはなしだよねと言いながらぐいと伸びをする彼女に、もう一度こちらから口付けをする。

ギリギリで、不安定で、それでも少しずつ幸せになりたいと願うことには、恐らく何も用意するものはないだろう。
でも、片方が無意識の洞窟に迷いこんだときのために、引っ張り上げる紐くらいは持ち合わせないといけないのだ。

ぱ、と唇を離すと、彼女がにこりと笑ってこちらを見る。
洞窟からは、出てこられただろうか。



「雨、あがってるね」


その言葉に外へ目をやると、先程までざあざあと音をたてていた雨はすっかりどこかへ消え、窓についた雨粒にきらきらとした光がいくつも反射している。


「テト、」

「なあに?」

「出掛けようか」

「今、それ言おうとしてたところ」



こんな話をするくらいなら、出掛けて気晴らしでもした方がましだろう。
今が楽しければ、きっと未来も楽しい。


「なに食べる?」

「米」

「やだ」


パンがいい、と言って服選びに駆け出した彼女の足は、確実に洞窟から出て光を享受しているようで。

そんな彼女の背中に笑顔と少しのため息を投げ掛けながら、自分も席を立って支度に向かうのだった。




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