ジャンル:遊戯王ARC-V お題:反逆の夏 制限時間:1時間 読者:76 人 文字数:1690字 お気に入り:0人

灼熱の夏に彼はどこへ行く

※統合後の遊矢と夏とプールの話。

「暑い……あつい、あ゛つ゛い゛」
時は八月上旬、夏真っ盛りである。
ここ最近の異常気象のせいもあり、常にコンクリートの道には陽炎が上り、水たまりは瞬く間に蒸発し、卵を外に置いておけば温泉卵が完成する。
それは蝉さえも鳴かぬ、静かな灼熱地獄。

「ユートどうしよう、目の前でズァークがこっちに来いって手招きしているんだけど」
(落ち着け遊矢、それは間違いなく幻覚だ)
遊矢は現在熱気揺らめく道路を日陰に沿いながら歩いていた。汗が後から後から止まらず、容赦ない日差しが遊矢の肌を焦がした。足元もどこかおぼつかない。
ここまで辛い思いをして、遊矢はどこにいくのか?
――彼の行き先はそう、市民プールである。
昔から夏の暑さに反逆する手段として多く挙げられているのは「水浴び」。
遊矢もそれに漏れず水浴びの主流場「プール」に出かけることにした。
そして、遊矢には目的がもう一つあったからだ。
「……この先に、水着の柚子がいる」
幼馴染の少女と共に夏の思い出を作るためである。
遊矢がプールに行こうと思ったきっかけも、彼女から「今日一緒に行かないか」と誘いの電話があったからだ。

(辛いのなら途中まで変わろう。なに気にするな。柚子とは二人きりになれるよう取り計らう)
「えへへ、ありがとなユート。でも自分で行けるから大丈夫だよ」
そういえば他の二人は?と遊矢が尋ねる。それに対しユートは一つ大きなため息をついた後
(ユーリは暑いのイヤ、と完全に引きこもった。ユーゴはさっきからぐったりとバテている。二人とも夏は苦手らしい)
と返した。

ふと遊矢は空を見上げる。気が遠くなりそうなほどどこまでも青い空。太陽は凶悪なまでにぎらつき地のもの全てを照らしていた。
「見ろよユート、空に雲ひとつない」
(雨も当分は降る気配はないな。絶好の行楽日和……と言いたいがこの暑さはな)
道路には今遊矢以外誰も歩いていない。プラスチックさえも溶けてしまうこの気温に多数の人々はクーラーがガンガンに効いた涼しい部屋に引きこもることに決めたからだ。

「……暑いばっか言ってないでなんか良いこと考えようか」
(それもそうだな。楽しいことか……プールについたら何を食べたい?)
滝のように流れる汗を拭いつつユートが問いかけてきた。精神だけの存在とはいえ今は遊矢と感覚を共にしている。遊矢が暑いと感じればユートもまたしかりというものである。
「そりゃキンキンに冷たくてあまーいかき氷!これから行く舞網市民プールはこの時期おいしいかき氷を出すんだ!」
ユートにも食べさせてあげるよ!あとできればユーゴとユーリにもな、と返す。
「まずプールについたら思いっきり泳ごう!柚子と一緒に……どんなの着てくるのかな」
と遊矢の顔がややだらしなく緩み始めた。楽しいことを考えて幾分か元気を取り戻したらしい。歩く早さもスピードアップした。
(……すまない。つかぬことを聞くぞ遊矢)
「え、どうしたの?」
(さっきからディスクが鳴っている。誰かから連絡が来ているんじゃないか?)
「うわぁホントだ!相手は……」
ディスクの画面には「柚子」の二文字が並んでいた。

『あ、やっと繋がった!遊矢ごめん、実は今日市民プール緊急メンテナンスでお休みなんだって。また今度にしましょう』
「あ、うん、そうだな……ははは」
休みなく歩き続けた遊矢の目の前には目的地の看板、そしてその上に雑に貼られた「臨時休日」の無慈悲な文が提示されていた。

――そこから遊矢はどうやってその寂しく辛い地獄道を帰ったかよく覚えていない。
意識が戻った時には遊矢の周囲にはスイカの皮とアイスの棒が散乱し、冷たいリビングの床に倒れこんでいたという。
一部始終を見ていたユートは詳しくは語らなかった。ただ一言「その時の彼は、鬼のようだった。俺は救うことができなかった」と少しばかり青ざめながら遊矢の中に住む他の二人に語った。
その後しばらく遊矢は長時間日に当たったことによる火傷に近い身体中の日焼けに苦しんだ。
夏はまだ終わらない。

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