ジャンル:S/J お題:団地妻のこだわり 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ 制限時間:1時間 読者:1740 人 文字数:2954字 お気に入り:0人

【S/J】 愛情なんて要らない 【微腐】

昔々、霧の都ロンドンは二十一世紀。ベーカー街221Bに、一人の探偵が住んでいました――。
S/J風味
お題:団地妻のこだわり
必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ


「つまらん」
「そう言う暇があるなら食器を片付ける手伝いでもしたらどうだい? 何でいつも僕がやってるんだよ」
「ジョン、僕の役割は頭脳労働だ。探偵業だ。肉体を使うものは君の方が得意だし効率的だ」
「どうでも良い屁理屈こねてないで手伝ってくれないかな……」
ジョンはいつも通り高慢不遜な態度をとる同居人に対し、はぁ、と大きなため息を吐いて、泡が付いた食器――主にジョンが使用したものだ――を洗い流した。
「事件、事件……何か事件は無いのかジョン!」
「僕に怒鳴ったところで事件は怒らないさシャーロック」
「つまらん! あぁ、つまらん!」
事件に飢えてヒステリー気味になっている彼を適当にあしらい、時には制裁を加えて大人しくさせるのはジョンの役目となっていた。
彼のこの性格には大家のハドソン夫人も困っている。
だがシャーロックのこの気性はお互いに理解している。彼もこのフラットへ引っ越すとき、ジョンと彼女に、鬱躁が激しい時があるという事、一週間程度口を利かない事がある事などを説明していた。
「コンコン、失礼しますよボーイズ」
噂をすれば、というものなのか。年齢の割には可愛らしい声で擬音と共にやって来たのは、大家のハドソン夫人その人だった。彼女の持っているプレートの上からは、綺麗な焼き色のついたクッキーが、柔らかで甘い匂い香りを立ち昇らせていた。
「ハドソン夫人! クッキーですか?」
「えぇ。シャーロックにお手紙を届けるついでにと思って。久しぶりに焼いたからちょっと焦げちゃったわ」
「いえいえそんな! 綺麗な焼け色で……って、手紙?」
「貸してくださいハドソンさん」
シャーロックはそう言うなり、彼女の持っていたプレートと手の間に挟まっていた封筒を取り、ペーパーナイフも使わずに封を切った。
それを横目に見たジョンはハドソン夫人に笑いかけ、
「すみません、冷めないうちに食べますね。シャーロック、手紙は何だって?」
「……ジョン、精神の宮殿へ行ってくる。ハドソンさんは外へ」
「あらやだ、また事件なの?」
「早く!」
「おい、強く言うな。いつもすみませんハドソン夫人……」
「ううん、良いのよ良いのよ。それじゃ、お邪魔虫は退散するわね」
「だから僕とシャーロックはそういう関係じゃ……って、行っちゃったか……」
ジョンは誤解を解くのも面倒になってきたが、一応軽くだけ言っておいた。
シャーロックは両手の手の平を合わせ、瞳を閉じている。マインドパレスへと旅立っているのだろう。
手持無沙汰になったので、テーブルの上に無造作に置かれた手紙を手に取り、目を通してみる。
「えーっと? 『シャーロック・ホームズ様、並びにジョン・ワトソン先生。今夜十二時きっかりに、大きな大きな桃がテムズ川を流れる事となっております。どうか我が子をよろしくお願いします』……何だこれ」
「……桃太郎だ、ジョン。日本の昔話にある」
「ふうん……あぁ、いや見れば分かるけど。これ、どう言う事だ? 嫌がらせか?」
「これを送って来たのはテムズ川上流の近くの団地に住む女だ。既婚だろう。乳幼児が二人、小型犬が三匹いる。手紙の付着物で分かる」
「……それで?」
「今から桃太郎を拾いに行こう」
「あぁ……言うと思ったよ」
ジョンは再び大きなため息をついて、先程の怠さから一変、急に活動的な側面を見せたシャーロックが一足先に階段を下りたのを見て、すぐにフラットを飛び出した。


「――桃に包まれた怪。テムズの乳幼児遺棄事件、ってとこか」
ジョンは眉をしかめながら、悲劇に巻き込まれただけの哀れな乳幼児、その成れの果てを見下ろした。
死体を屈みこんで見ながら、黙々と、表情一つ変えずに調査をするシャーロックの周囲では、ヤードの面々が黄色いテープの規制線を張り巡らせていたり、第一発見者に事情徴収したりと動いている。
「死因は溺死だ。この腐乱具合とガスの発生から分かる。遺体は女児だろう。それに、少なくとも三年以上が経っている」
「哀れだな……こんな、……生まれて間もない子供を……」
「犯人はテムズ川上流の団地に住む既婚女性。子供二人小型犬三匹。この条件で捜査しろ」
シャーロックは立ち上がると同時にそう言って、興味を無くしたように背中を向けた。
「動機は夫の浮気によるストレスと育児疲れ。随分と拘りの強い団地妻だ、殺し方にも随分と拘りを持つ。部屋を捜索すれば必ず証拠が見つかるだろう。そういった女に限って証拠をわざと残して勲章にでもしたいと思うものだ」
彼はそうとだけ言い残し、待たせていたタクシーに一人乗り込んだ。
「おい待てよシャーロック!」
発進しようとしたタクシーをなんとか止めて車に乗る。もう少しでおいて行かれるところだった。
「もう終わりなのか?」
「あぁ。ありふれた殺人だ。つまらん」
シャーロックはぼんやりと窓の外を眺める。
釣られてジョンも眺めながら、ふと一つ、疑問が浮かんで口を開いた。
「なぁ、シャーロック」
呼びかけても返事が無い。だが彼は聞いているだろうから、構わずに問いを続ける。
「君、事件の間ずっと機嫌が悪かっただろ」
「何でそう思う」
「んー……表情がいつもよりも晴れなかったし、楽しそうじゃなかった」
「顔色だけか? 証拠としては薄いな」
「誤魔化すなよ。悪かっただろ?」
重ねてそう言うと、シャーロックはぼんやりと外を眺めていた瞳を僅かに伏せ、静かな声で言った。
「……昔の事を思い出した」
「昔?」
「僕の母は拘りが人よりも強かった。僕よりも出来の良いマイクロフトは寵愛していたが、僕の事は放っておいていた」
「……それで?」
「あの時学校に行く時間があるならば研究していた方が有意義だったと思っただけだ」
ぶっきらぼうに言った彼は、どこか遠いところを見るように目を細めていた。
シャーロックは人よりもずっと素直じゃない。だが、今度のこれは無自覚なのだろう。
「……別に、愛されたかったって言えば良いじゃないか」
「愛なんて僕には必要ない」
「いいや必要だ」
「邪魔だ」
「だけど君は愛を欲してる」
「要らない!」
彼は叫ぶようにそう言った。
ジョンは今度ばかりは言い聞かせるのが難しいと思い、反論の手を止めた。少なくても今はそのタイミングじゃない。
「シャーロック。僕は君を愛している……友達として」
「…………」
「僕の愛も要らないか? だよな。天才コンサルタント探偵だもんな。親友の気配りなんか要らないか」
「……ジョン……その……悪かった」
「あぁ、それでいい」
ジョンは彼の「愛が要らない」という言葉以上に、彼の人間らしい一面――愛を受けられなかった乳幼児に自分を重ねる彼に密かな喜びを感じた。
きっとシャーロックは、これからも愛を認めることは無いのだろう。
だがいつか自分が、彼に愛を――友愛を教えることができたのならば。
そう思いながら、ジョンはいつもより微かに眉の下がった彼の横顔を、静かに眺めていた。

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