unique イザシズ 未完 ※未完
愛してくれる誰かが居るかもしれない愛してくれたなら自分は満たされるかもしれないと思っていた心の皮が無惨にもズタズタに引きはがされて顔を出したのは化け物だった。
いらないと、心から思って、解放されたことに笑ってしまう。
あの刃の群れに愛して欲しいだなんて全く思わない。そうか、本当はそんな事欠片も思っていなかったんだと気付く。
自分の人生を壊す覚悟で諦めた?地獄に耐えられなかった?全部はったりだ。お笑い草だ。
そうして、希求を捨てて凪いだ心の中に居たのはたった一人だ。そいつも一人だった。
「ああ、お前の言うとおりだったな。俺は化け物だった。本当は人間らしさなんて欠片も持ち合わせていなかったんじゃねぇか。でもな、じゃぁお前はどうだって言うんだ?お前が人間?笑わせんなよ」
俺達は本当のたった一人になる為に生きているんだろうか。
瞼に当たる光で目を覚ます。幼い頃からの習慣だ。雨の日はだから目覚めが鈍いが、日も長くなる5月ごろは5時には目が覚める。
基本的に、取り立てと言う奴は朝8時から午後9時までしか法律で出来ないので(そもそも弁護士以外がやるとダメだとか、法律は一応勉強しとけとテキストを渡されたりするのによると)早番の日は7時出勤して少し掃除や打ち合わせをして、回収に行く手はずになる。出勤前を抑えるのは基本だが、風俗で身を持ち崩すなんて奴はまともな生活をして無い奴も多い。グレー商売なので、10時間歩き通しもざらにあるが、体力のある時分にはそんなに苦はないが、遅番は昼から出勤なので少し時間を持て余してしまう。一人身では洗濯も掃除もすぐに終わるし、こんな朝からどたばたと動き回れもせずに窓を開けてぼんやりと煙草を吸う。
朝焼けの空に煙草の煙が白く溶けていくのを何ともなしに見ながら、こんな朝早くから出かける人や、逆に始発で帰ってきたのだろうホストを見る。中心地から程遠いので喧騒とは程遠いが、それでも昼間とは比べ物にならない穏やかさがそこにあって、静雄はこの時間が好きだった。どこか遠くから漂う、パン屋がパンを焼くにおいだけが、少し寂寥と罪悪感を抉る位で。
携帯を見ると、幽からメールが来ていた。幼い頃からの習慣を知る弟は、比較的体の空いているこんな時間に連絡をくれる事も多い。比較的大きな仕事が今度終わる。とだけ、書いてるので、それは祝えと言う事なんだろうと思いながら、つまみと酒を振る舞ってやることを約束する。宅飲みになる事が多いが、ロシア寿司でもいいかもしれないな、久しぶりにと思う。
トーストとカップスープ。野菜をとれとうるさいので千切ったキャベツを電子レンジで温めて塩を振る。それをもそもそと咀嚼しながら、まるで人間みたいだなと思うが、この25年を人間としてして過ごしてしまったので、化け物の生き方は分からなかった。セルティとは違う。腹は減るし眠くなるし超能力は使えない。 ただ力が強くて少し精神構造が違うだけだ。
愛される事を全く求めてない事に気付いた。それが、生まれついての欠損だったのか、それとも25年の孤独を経て獲得したのかは分からなかった。もう、どうしてこんなに孤独なのかと患う事もない。誰の事も欲しがってないのに、欲しがられるわけがなかった。それは、新羅とセルティを見て確信する。新羅がセルティをあんなに愛していなければ、セルティは新羅を愛さなかっただろう。セルティを愛していない新羅を想像できなかったが、恐らく姉の範疇を出なかったのではないだろうかと思う。自分だって、愛してくれた人間を殴り飛ばして拒んだのだが、それでも嬉しかった。嬉しかったが、愛し返せないしいらないと思ってしまったが。愛し返せないからだろうか?と言う事はそもそも、愛していないのだ。
「だとすれば、愛してるとか抜かしているアイツはそもそも何で愛し返されてないんだろって話だろ?なぁ」
そういえば、あの男は自分を懐柔する手段だとしても何としても俺を愛してるなどと言う薄ら寒い事は言わなかったなと思い返す。おそらく、それは真実だっただろう。誠実とは少し違う。そうと口に出すのもおぞましかっただけだ。そして、多分俺だけにだ。こんなにも俺もアイツも互いを憎んでる。それでも、俺とアイツは何処か似ていて正反対だ。極点とでもいうのだろうか。
「それでも、世界には二人しかいねぇ」
なのに、傍に居る気にならない。殺しあって一人きりになるのが目に見えていた。というか、いつかそうなるだろう。別に一人きりが怖くないんだから。
ずっとパソコンを見続けた目に外からの光が入って一瞬目が眩んだ。すっかり固まってしまった筋肉をほぐして外を見る。
事務所の窓から外を見ると、高速バスが続々と芸術的なビルに停まって、観光客か帰省客か分からない集団を新しく吐き出している。あの中に、新しい玩具は居るだろうかと思う。比較的安価で東京に来られるようになって、若い子供が流入する。夏休み辺りはまた楽しいかもしれないなと思いながら、色々算段を立てている時にふっとシズちゃんの顔が浮かんだので眉を自然と顰めてしまう。基本的に、俺の感情は喜と楽にぶっこわれているのでこうなるのはシズちゃんにだけだ。高校に入るまでに、俺は怒った事がそういえばあっただろうか?憎んだことは?コンプレックスや焦りは既にあったが、その二つはなかった気がした。それでも、あいつにそれを教えられたのだと言う事は憚られた。事実だとしても、癪だから言ってやらない。
新羅は、君はしずおにあって