ジャンル:ハイキュー!! 黒大 お題:寒い大地 制限時間:1時間 読者:611 人 文字数:2532字 お気に入り:0人

せいりのはなし ※未完


 ピロン、聞きなれた着信音がカバンから聞こえてスマートフォンを取り出す。しつこいくらいピロンピロンと鳴り続いたから何事かと思えば一人からのメッセージだった。要約するとこうだ、『しんどいから助けに来い』。ああもうそんな時期かと時間の流れを意識して、この一月何があっただろうと振り返る。概ねいつも通りだ。きちっと周期的にやって来た所を見ると向こうにも変化はないと考えていいだろう。そのことに少し安堵して――しかしこの安堵は絶対に伝えてやらない、怒られるから――連絡を寄越した男の元へ向かう。
「澤村サーン、郵便デース」
 大学近くに下宿している連絡を寄越した男は、澤村大地という。高校時代宿敵だったカラスを率いた主将サマ。懐が広いけれども優しいだけじゃなく、ガードが堅いと思えば抜けている所もある、何ともちぐはぐな男。他人に優しく自分に厳しく、を地でやってのける精神力のある奴。弱味なんて絶対に見せないし、弱ってても上手く隠し通す技量がある。俺に似てるが嫌な奴じゃない。人徳溢れる人格者って感じ。
 でもそんな人格者は月に一度弱ることがある。気付いたのは同じ大学に入学してから二月たった辺りか。学部違いであまり顔を合わせる機会がなく時間が合えば昼食を一緒に取ったりする程度だったが、暫く振りに会った時ほんの少し顔色が悪いように感じられてそれを指摘すれば、余程余裕がなかったのか繕うこともなく動揺を晒した。以後、少しずつ外堀を埋めるように追い詰めれば根負けしたのか、開き直って「話がある」と連絡をされ澤村大地のヒミツを知った。この時下宿先に初めてお邪魔したんだけどびっくりするくらい物が置いてなくて……その話はまた今度でいいか。
 ピロン、またスマートフォンから音が鳴った。メッセージが届いている。どうやら口を開けないほどの重症らしい。玄関は開いているから入るよう許可が出た。お邪魔シマースと入れば部屋は明かりがついておらず薄暗くて、その薄暗闇の中で黒い物体がもぞもぞと動いた。
「無事デスか?」
「……水、くれ」
「白湯?」
「……ん」
 黒い物体もとい布団に包まった澤村サンは顔だけを覗かせて早速俺をこき使う。言葉を発するのも辛いようだが痛みには耐えられず時折呻き声を出して、毎度毎度大変だなあとそっと同情した。こんなこと、言ったらその場で殴り殺される。
 勝手知ったる何とやら。台所でやかんに水道水を入れて沸騰させる。ポットだとカルキ臭くなるらしく、余計に気分が悪くなるそうだ。ちゃんとしたポット買えばいいのに買わないのは倹約家だからか面倒くさがり屋だからか。冷凍庫にある氷を数個コップに入れて、お湯が沸くのを待つ。加熱の音に混じって呻き声が聞こえてくる薄暗い家、状況だけ見たらヤバい感じだが、実際ヤバい感じである。どっからどう見ても平凡な男に実はとんでもないヒミツが隠されているなんてぇ、と、かつての俺なら笑えたのだろうか。いや、きっと笑えなかっただろう。澤村の体に起こる異常は、笑い飛ばせるようなものではない。
 そうこう考えているうちに沸騰したようなので火を止めてお湯を注ぐ。氷が耐えかねてバキバキと音を立てて崩れていく様子をぼんやり眺めながらかき混ぜて温度を均一にする。確認のためこっそり一口頂けば、体を温めるにはちょうど良い温度になっていた。流石に半年も同じことやってれば馴れてくるもんだ。寝っ転がる澤村に出来た白湯を差し出せば、むくりと起き上がり両手でコップを支えてゆっくりと飲み始めた。血色の悪かった顔が少しずつ色づいていく。全て飲み終えたのを確認してから澤村に問う。
「今回は重めなんだな」
「……ああ、スマン」
「別にいーですヨ。それより、必要なもんとかない? 痛み止めは飲んでるんだろ」
「無いは……あっ」
「何」
「いや、何でもない」
「何でもない訳ないですよね澤村サン? もしかして朝から何も食ってないとか?」
「……」
「図星か。空きっ腹に薬は良くないってあれほど……まさか食糧が無いのか?」
「う、その……」
「無いんだな。よし、買ってくるから寝てろよ」
 頭の中で何を何処に買いに行くか組み立てていく。言い負かされた澤村は心なしかへこんでいるようにも見えて非常に愉快ではあるが、へこんでいようが愉快に思おうが笑えない状態なのに変わりはない。周期的には乱れなくやってきているのにどうして備蓄がないのかは元気になってから問いただすとして、まずは元気になるところからだ。
 さあ何を作ろう。この半年で作れるようになった献立は少ないが、全く料理をしなかった頃に比べればマシだ。あまり負担が掛からず体に良いものといえばお粥だろうか。悩んでいると澤村が蚊の鳴くような声で、ぼそりと言った。
「……ごめん」
「え、何が」
「毎月、悪い。俺に……生理が来るせいで」
 俯く澤村の表情は窺えないがきっと悔しさとか恥ずかしさとかで複雑な顔してるんだろう。この半年で何度も繰り返されたきた台詞もいい加減聞き飽きたものだ。
 澤村大地にはヒミツがある。とんでもないヒミツ、ウソみたいなホントの話。それは、男なのに生理が来るってことだ。
 弱味を見せた澤村をねちっこく追い詰めて聞き出したのはそんな突拍子もないこと。訊きたいことなんて山のようにあって疑問は海より深くなって、その時はシンプルにどうしてと訊いた。澤村はこう答えたんだ。
『どうもこうもねーよ、そういう“血”なんだ』
 この“血”ってのが澤村家の血筋を表していると知ったのは、もう少し後のこと。
 澤村の血筋は数代に一人こうして性別のちぐはぐな人間が生まれてくるらしい。澤村の先々代が生理持ちの男性だったそうだ。役所には男と出ているが生理も来る曖昧な人間。だけど生理は来るだけで妊娠は出来ないそうだ。つまり、よく分からないまま月イチで血を流していることになる。
 聞いた俺はもう分からないことだらけで、すぐにでも質問攻めにしてしまいたいと思った。でもこれは澤村大地の明確な弱味であり、対峙した澤村があんまりに威圧的だったので、さっき言ったことしか俺は知らない。澤村が言ってくれたことはこれだけだ。

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