リストカッテ・リストカッタ(途中) ※未完
「……来ちゃった、な」
高校時代に使い込んだスポーツバッグを片手に、俺は仙台駅に降り立った。
日差しが照りつける8月の半ば。暑くて仕方ないがそれでもコンクリ地獄で湿度が高い東京に比べればいくらかマシってモンだろう。
俺が仙台に来たのは半分旅行感覚。一人旅ってヤツ? 大学入って初めて迎えた夏休みはバイト三昧で、それでも3日休みをもぎ取り仙台に来た。旅費はほとんど親戚の大人持ち。だって、この旅には目的があるからだ。
半分は旅行感覚。じゃあもう半分はっていうと、刀探しだ。
高1の夏、祖父は俺に「美しい刀」の存在と、刀の見方ってのを教えてくれた。その祖父がそろそろヤバいらしい。お迎えがすぐそこにまで来ていて、もうどうにもなりそうにないらしい。大病を患うこともなかったから天命だと思う。高1の時点でかなり元気がない風だったから、よくぞ3年生き延びたなって感じだけど、それは言うと流石にマズいだろう。
弱り切ってあとは死を待つだけと祖父も割り切ってて、せめて最期に何かしてやりたいと考えた周囲は望みを何でも叶えてやると本人に言ったらしい。じゃあ最期にとびっきりのワガママ言ってやろうと、祖父は望みを包み隠さずにこう言った。
あの名も知らぬ「美しい刀」に斬られて死にたい。
事件じゃねーか。
もうすぐ死ぬなら惚れ込んだ刀で斬り殺されたいって、あとちょっとで死ぬのにどうして待てないんだ。何でわざわざ不穏な方に持っていこうとするんだ。お迎え待とうよ。殺人事件にしようとすんなよ。
斬りたいならまだしも斬られたいとは流石父、と息子を始め周囲は呆れを通り越して褒め称えたらしいが何をどう褒めるんだ。斬られたいって言ってんぞ、ドMだってこんなこと言わねーよ。お宅のお父さんかなり変態じみたこと言ってんよ? 誰か正してあげようよ。
でも蛙の子は蛙とはよく言ったもので、ぶっ飛びすぎて木星辺りまで飛んでってるようなその望みを、親戚一同叶えてやることにしたという。誰か普通の人いないのか。祖父が離れで一人ひっそり暮らしていたのは祖父が奇人変人だからって教わったけどお前らも十分変だぞ。そこは叶えなくていい願いだろ。
しかも、その願いを自分らで叶えるんじゃなくて俺に託すってんだからもうメチャクチャだ。自分らがうんって言ったんなら自分らで何とかしろよ。微妙に離れてる孫の俺に託すな。でも暇だろうと言われそこそこのお金握らされたら貧乏学生は揺らぐし、毎日電話掛かってきて親戚がお願いお願いってうるさいもんだから、もうお前行って来いよと親が俺を見捨てた。大事な一人息子なんじゃないですか。そんな簡単に俺を見捨てるんですか。手の中にある沢山の諭吉だけが俺の味方なんだって知った19の夏でした。
さて、名も知らぬ美しい刀さんを見つけるために来た仙台。情報として挙がってるのが「東北、多分仙台にあるっぽい」「満月の夜に見かけた」「持ち主が刀持って一夜限りで歩き回ってる」という3点。祖父がウン年前に旅行した場所で見つけたというおぼろげな記憶を固めに固めて場所は仙台かなあと絞り込み、満月の夜に会ったから会える可能性が高いのが満月の夜かもしれないと予測し、その刀を持った人物を街中で見かけたって情報から会えるなら街中かもしれないと推測した。何一つはっきりした情報がない中、その刀見つけられたら奇跡だと思う。親戚もそれを知ってるし親もそれを見越して面倒臭そうに行って来いって言ったんだろうけど、みんな、肝心なことを忘れてる。
その刀の持ち主を仮に見つけたとして、出会ったとして。
祖父はその刀が「美しい」と知っていて。
祖父の持論によると「刀が最も美しいのはモノを斬ってる時だ」ということで。
俺、出会ったら斬り殺されるよねコレ?
同じジャンルの似た条件の即興二次小説
見つかりませんでした。