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スチームパンクな槍たち ※未完

 ここは酷く息苦しい。男はそう思った。
己がかつて一本の槍として振る舞われていた頃。付喪神としての意識も、あまつさえ肉体すらもなかった時代。そこには機械から排出される汚れたガスも、日々押し寄せる砂の山もなかったし、町はこうも粗末で味気のない四角い建物ばかりではなかった。ただかつての風景と似ているのは、その家々の合間に座り込む――あるいは倒れて動かない人間の姿だ。ああ悲しくもどれだけ時が過ぎようが、まるで必要とされていないまま消えていく命というものはあるのだ。
「何やってんだあ、蜻蛉切」
そんな男の名を呼ぶ声が背後から聞こえた。振り向くと、深緑色の金属の鎧で全身を覆った人物がいた。プシュウと音がして、頭部のヘルメットが開く。その中には人の好さそうな笑みを浮かべた茶髪の青年がいた。
「こんな人間の町なんて見てよ」
「……昔を思い出していた」
「ああ、俺たちが使われてた時代か?人間社会ってのは変わらねえよなあ。結局は金持ちが融通利かせてさ、庶民の端の端はこうして朽ちていくだけだもんな」
「御手杵」
諌めるような蜻蛉切の声に、青年は軽く笑った。
「だって本当のことだろう?槍の俺にとっちゃ使う人間以外はなーんも関係ないけどよ」
青年の名前は御手杵という。蜻蛉切と日本号と共に『天下三名槍』などと呼ばれた誉れある槍だ。彼らは槍に宿った付喪神として、この西暦をもう二千数百年数えようとしている時代に呼ばれた。時間に干渉して歴史を変えようとする愚か者たちを抹消するために。
「それよっか、あんたシェルタースーツ着なくて良いのか?」
「今日は非番だ」
「あっそう。でもよ、あれ着ないと具合悪くなんねえか。なーんか空気が汚いっつーかさ、疲れるっつーかさ」
御手杵はそう言って顔を顰めると、再びヘルメットを閉めた。
 付喪神は末席とはいえ神である。そのため人間界の――それも酷く技術が進化しすぎた現代の――空気は合わないのだ。それゆえそれぞれにシェルタースーツという金属の鎧を提供されている。神を機械で保護するなどおかしくはあるのだが、実際機能しているのだから誰も何も言わない。
「まあいいさ。俺はあんたと違って人間寄りじゃない。別に人間の一部がどうなろうと戦えりゃそれでいい」
「……」
「じゃあな。俺は本丸へ戻るぜ」
「御手杵」
「なんだ?」
「貴殿は、あれをどう思うか」
蜻蛉切がそう指差した先には、コンクリートの割れ目から生える小さな花があった。御手杵はシュウウと機械音をさせながら首を傾げる。
「ただの植物だろ。歌仙ならなんか言うんだろうけどさ」
それだけ言うと青年は手をひらひらと振って去って行った。
荒廃したコンクリートジャングル。そこに残された男はじっとその小さな輝きを見つめる。

――御手杵が顕現している理由は『戦える』という一点に他ならない。ならば自分は。自分がここにいる理由は、きっとこれなのだ。荒廃しきった町にも植物が生える。堕落しきった人間たちの中にも、主のような輝きを持つ者がいる。それを見ていたいのだ。輝きに期待し、守っていきたいのだ。

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