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【プチ徐】悪魔や悪霊なんていないさ

子供の寝る時間より遅く、かといって大人が寝る時間にはまだ早い時間帯。けたたましく鳴らされた呼び鈴に眉を顰め玄関口に赴き不用心にもほどがあるが、玄関を開ければ強い衝撃がプッチの体にぶつかった。
とはいったものの、その衝撃は体を後方に吹き飛ばす威力もなければ視界を過るある意味見覚えのある独特な髪形をする影に怒りより疑問を抱いた。
何も言わず何も聞かない沈黙の時間が暫し流れ、見下ろした先にある髪が濡れていることに気づき玄関先でこのまま突っ立っていても仕様がないので濡れている徐倫の肩を抱きながら玄関の鍵を掛けた。
前触れもなしに訪れた嘗ての宿敵。一先ずソファに腰掛けさせ濡れ冷えた体の上に柔らかなタオルを被せる。小刻みに震える肩、両手を固く握り膝の上に置く光景に断固として動かない意思があるのかは如何でもいいとしていい加減体を拭かなければ風邪をひく。

「……はぁ」
肺に溜まった色々聞きたい思いをため息に変換させ排出したプッチの手が徐倫の頭に被せられたタオル越しに髪を拭く。タオルに隠され俯いた徐倫の表情は窺えない。拭きながら誘導尋問をしてもよかったが、彼女の口から事の顛末を聞くまでプッチはだんまりを決め込んだ。
「あんた神父でしょ?悪魔とか悪霊の類を退治できる、だろ…?」
恥ずかしくて徐々に窄まる徐倫の声にプッチの目が僅かに見開かれる。一般的に女性が一人で出歩く時間をとうに過ぎた時間帯にわざわざ敵対していた相手のもとへ訪れるものだからどんな早急を要したり大事なものかと思えば――。
視線を床下に向け合わせようとしない徐倫のやや脹れた顔にプッチはどっと疲れが込み上がる。
「――出来なくもない。だが、私は悪魔退治や除霊に特化した神父ではないのでね。余り期待しないことだ」
「期待もなにもない。あんたは神父だ、たとえ救いようのない下衆な野郎だろうが腐っても神父だろ?あんたの傍にいるだけで平気そうな気がすんだよ……」
「そもそもスタンドを使っておきながら子供だましの悪霊や悪魔が怖いだの馬鹿馬鹿しい。実際にそのようなものは存在しないというのに」
「存在しないってどういうことだよ」
すっかりいつもの調子に戻った徐倫に内心微笑みつつ、表情を崩さずプッチが気持ち落胆した声色で語る。
「以前テレビで悪魔祓いの番組を見ていたのだが、そこに出ていた老婆が毎夜悪魔に苦しめられ悪魔祓いをその世界では有名といわれる人物に依頼したのだ。そして、いざ悪魔祓いを開始すれば老婆が途端に苦しみだし悪魔の言葉であろう口汚い言葉をまき散らしながら暴れまわり、テレビの演出上派手な攻防の末めでたく悪魔を祓うことに成功した。ただ、老婆曰く悪魔に噛みつかれた噛み痕というのが、どう見てもダニに噛まれた痕でな。人の思い込みは改めて凄いと思ったものだよ」
「あ、あー…」
そんな声しか出せない徐倫に再び向かい合い殊更真面目な顔でプッチが言い放つ。
「故に君が恐れている存在というものはこの世には存在しない。だから、安心して家に帰りあたたかなベッドに潜り込んで寝ればい――」
最後まで言えず遮られたプッチであったが、背中に腕を回し抱き締めるというよりしがみ付いて離れない徐倫に再び嘆息を吐いた。
一体何を考えているのか分からない。されど、悪夢に怖がり魘され華奢な体を一層小さくして震える徐倫の背に腕を回せば額を擦り付ける感触が胸に広がる。
其処まで彼女を怖がらせるものの正体を是非知りたいところ。正体を掴めば今後何かに役に立つかもしれない。
「(しかし、今はこのままにさせておこう……)」
滅多にない徐倫からの接触。彼女に自身の匂いがしみ込むように抱きすくめ、自身も彼女の香りをすんっと嗅いだ。雨の湿った香りに交じるいい匂い。徐倫の香りに浸り、徐倫の体の柔らかさ、そして熱にプッチの目が眇められ緩やかに瞼を下した。
腰を引き寄せる腕を疑わず受け入れる。なんと無防備なことか。そうプッチが胸中悪態を吐いたところで子供のように怯える徐倫を蔑むどころか身を案じ落ち着かせる手つきと目つきは慈愛に溢れたものだった。

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