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クリスマスがやってくる

午前の部の客を施術し終え、準備中の札を入り口ドアにぶら下げた。
先生、これからお昼?
身嗜みを整えていた40代の女性客が訊いてきた。
そうですね。たっぷり食べて、午後にも備えないと
季節の変わり目は体の不調を訴えてくる客が増える。寒くなると皆、身体を硬くしてしまうので、一部の筋肉に極端に負荷が掛かってしまうためだ。この女性客も、腰が痛くて仕方ない、と通常の施術周期よりも早く店にやってきた。
ご一緒しませんか? 氷室先生。ちょうど『トマティーナ』の割引チケットがあって
すみません、今日はちょっと寝不足で、昼寝で睡眠時間を確保しようと考えているので、そこの『紺屋』で済ます予定なんです
それは残念、と女性客は肩を竦めた。紺屋は女性客をほとんど寄せ付けない、頑固で雄雄しい店だった。
先生はトマティーナお好きだと聞いていたのに
ええ、とても好きです、と氷室はドアを開いた。また誘ってくださいね

クリスマスに帰るから、とスカイプを終える瞬間、火神は割り込むように言った。
そっちにおじさんがいるだろう?
火神の両親は離婚していたが、両親共にUSにいる。クリスマスはそちらで過ごすのが当然だった。
……タツヤがいないじゃないか
聞こえるか聞こえないかという声の大きさで、火神は言った。叱られるのは分かっていて、それでも言い返したかったようだった。衛星中継で見る豪胆なプレイとは違い、プライベートの火神はどうも女々しい。氷室の前だと特にひどいのだ、と火神の友人である黒子が言ったいた。

そろそろ、クリスマスか、と氷室は一枚上着を羽織って、店を後にした。紺屋の入り口に、クリスマスリースが飾ってあるのを見て、大笑いしながら店の扉を開くと、店主が不可解そうな顔で「いらっしゃい」と言った。

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