ジャンル:ハイキュー!!【腐】 お題:名前も知らない夏休み 制限時間:2時間 読者:346 人 文字数:4069字 お気に入り:0人

夏休みの終わりに

及影(+及岩?)

「及川さん?」
目を覚ました時、そこにいるはずの人がいなかった。
本当にいなくなってしまったら? と考えて急に不安になる。

「どうしたの、飛雄」
当人は暢気にそう言って姿を現した。
「いや、なんでも、ないです」
「そう」
いつもはうるさいこの人も、こんな状況ではさすがに静からしい。
一緒に寝て、起きる。
明日が来ないんじゃあないかって、思ったりもした。
でも、今日も隣にはこの人がいる。
心からよかったと思って、安堵の息を吐き出した。

グラスが差し出される。
「あざっす」
「ちゃんと飲まないとね、今は夏だから……」
心配、してくれているのか。
グラスを両手で受け取って、中に入っていたぬるい麦茶を飲む。
「今日は、どうしようか?」
及川さんも同じようにグラスに口をつけながら、けだるそうにそう言った。
「なに、しましょうか」
時計の針は六時を指していた。
朝練のために身についた習慣は、こんな時でも体内時計を正常に働かせる。
窓の外を見ても、人の姿はなかった。

「バレー、する?」
麦茶を半分ほど残してグラスを置いた及川さんが、ふと、口からこぼれるようにそう言った。
「する、するっす、しましょう!」
勢いよく立ち上がると、机に脚をぶつけて、さきほど及川さんが置いたグラスが揺れた。
「危ないって」
と言いながら、及川さんは少し笑った。

及川さんが部屋から持ってきたボールは、しっかりと空気が詰まっていて、
指に吸い付くようなボールの感触にうっとりする。
「久しぶり」
隣では及川さんがそう言ってボールに口づけていた。
まるで何かの絵のような、美しくて儚くて、心臓がぎゅっと握られる。
やっぱりこの人には、バレーボールはよく似合う。長い長い、俺の憧れ。
この人みたいになりたくてなりたくて仕方なくて、教えを乞うたことがあった。
だから、お願いだから。
いつまでもこの人にバレーをさせてあげて欲しいと思う。

「でも二人でできることって言ったら、パスぐらいか」
片手でポンポンと軽い音を立てリフティングをしながら、及川さんが言った。
「じゃあいくよー」
飛んできたボールに合わせて、相手の手元に落ちるように返す。
そのうち楽しくなって、飛びながら合わせたりとかそんなことをして軽く汗を流した。
今まで考えていたもやもやも、バレーをしている間だけは忘れられた。
及川さんがボールをつかんで、ボールの往復が終わった。
急に、虚しいような心地になる。

「飛雄」
「はい」
「サーブ、教えてあげようか?」
「……いいんですか?」
「まあ、こうなったらね、もう」
そこで及川さんは言葉を切った。先の言葉は、俺も聞きたくはなかった。
「で、やるの? やらないの?」
「やりたいっす、教えてください!」
頭を下げると、頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
「今日で、最初で最後だ、ちゃんと見ておけよ」
と及川さんは言った。

見よう見まねでやるのとは違って、及川さんから修正が入る。
いくつかあったボールがなくなるまでやって、それから回収に行く。
外でやっているからボールには傷が入っていった。
「いいんですか、これ。俺、受けましょうか?」
「いいよ、別に、惜しむようなものでもないし」
そういった及川さんはそれでもどこか楽しそうだった。

「お腹すいたなー、朝ごはんまだ食べてなかったか」
「そっすね」
毎朝同じものを食べることにうんざりしていたから、起きてすぐ食べたいとは思わなかったが、
久しぶりにバレーをして汗を流したからか、お腹がすいたとはっきり思った。

今日は8月31日。
本当だったら夏休みは今日で終わるはずなのに、明日もまた、今日と同じ一日が待っている。

それ、が起きた日には何が起きたのか分からなかった。
ただひたすらに、怖いとも思えないままに、時間だけが過ぎていった。
この世界の終わりを、世紀末というらしい。
現社の期末テスト範囲を月島に叩き込まれたときに、宗教の項で出てきた言葉。
まさか、自分がその世紀末を目撃するとは思わなかった。

周りの人は死んでいった。
糸が切れたように、ふっと倒れる。
そして、徐々に溶けていく。
腐敗をするのでもなく、そして溶けていくといっても太陽の熱ですぐに蒸発していって、
道端に転がっているものから何から、夏の熱できれいさっぱり消えていった。
その光景は異様であった。そしてなぜ自分がそうならないのか、不思議に思った。

一斉になったのではない。
半数ぐらいの人が一気に倒れてからは、目の前で10分程度の間隔をあけて。
その日のうちに、自分の周りで動いていた人は全員が倒れた。
世界のどこかには自分と同じように生きている人がまだいるかもしれない。
そう思いながらつけたテレビはもう動かす人がいないのか、
砂嵐を写すばかりでこの状況についての情報は何も得られなかった。
その日はそうしているうちに夜になって、寝た。
明日の朝、起きることがないかもしれないと思いながら。
そして、どこかでそれを願っている自分に気が付きながら、目をつぶった。

電気はそれから2日でストップした。
しばらくは使えていた冷蔵庫も、電源が入らなければ中のものは腐っていってしまう。
食べ物はすぐにダメになっていった。
ガスは外にあるガスボンベがなくなるまでで、
料理などカップラーメンを作る程度しかできないためにまだ持ちそうだった。
水道もいつ止まるか分からない。
そんなところで、家にある食べられるものが尽きて、一週間ぶりに外に出た。
外に転がっていた死体は7日間をかけて溶けて蒸発し、ほとんどが無くなっていた。
他民家の中に人影が見えて期待して近づいたが、
それももう溶けかけて、顔は見る影もなかった。
気持ち悪いと思うばかりで、それがもう人だとはどうしても思えなかった。

食べ物があるところ、と言われて真っ先に思いついたのはコンビニだった。
あそこだったらカップラーメンもある。
最近はもっぱら缶詰を食べていたから、暖かいものが食べたかった。

そこで、出会ったのだ。
もう一人の生存者。
「及川、さん?」
「……飛雄?」
あー、まだいたんだ、生存者。
と及川さんは力なく言った。

及川さんの話を聞いても、大体俺の知っている状況と変わらなかった。
「一週間家に引きこもってたの? ……馬鹿なの?」
馬鹿と言われて、馬鹿だけど何なんだと思った。
「まあ、どうしようもなかったけどね。助けが来るわけでもないし。
 自転車に乗ってなるべく遠くまで行ってみたけど、ここと全く同じ」
腐っているわけではない、溶けかけの人の山があるだけ。
「及川さんは、なんでまだここにいたんですか」
「んー? だってねえ、岩ちゃんを置いてはいけなかったんだもん」
その言葉は、岩泉さんがもうこの世にいないことを表していた。

それ、が起きたとき、一緒にいたらしい。
そして岩泉さんは倒れて、家の中にいたからか溶け始めたのはその1時間後。
何もできないことを知った及川さんは、
それから、岩泉さんが溶けるように、蒸発するように庭にだして、
一週間かけて何もなくなってしまうのを見ていた、と。

それから、俺は及川さんの家にお邪魔することになった。
家は一人では寂しい。もともと家族と一緒にいるための場所だから、一人では広すぎて落ち着かない。
初めて泊まった日に、一緒に寝ようと言われた。
手をつないで、寝た。
久しぶりの人のぬくもりに、なぜだか涙が出てきそうだったが、堪えた。
そうすると、及川さんの手が揺れて、ああ及川さんも寝られないんだなって思った。

もうそろそろ、近所のコンビニやスーパーから食べられる物がなくなる。
それ、が起きてから、一か月が経とうとしていた。

「及川さん、明日、なんですけど。学校に行きませんか?」
「明日が、9月1日だから?」
及川さんの目は疲れていた。きっと多分、俺も同じ目をしている。
「はい。夏休みが終わるんで」
「でもね、飛雄、学校には誰も来ないんだよ? それでも、行くの?」
「……はい」
及川さん、俺は、あなたがいなければきっともうとっくに死んでいました。
自分で、死んでいました。
朝起きたとき、一人の自分に気が付いて、起きたくないと逃げていました。
「もしかしたら、くるかもしれません」
「それは、ないよ。だって探したでしょ?」
そう、及川さんは俺とは違って生きている人がいないかずっと探していた。
及川さんの家に来てから、俺もその及川さんを手伝って、
知っている限りの友人の家や、もちろん学校にも行った。
「夏休みは終わりなんです。きっと来ます。もし来なかったら、その時は、俺たちで夏休みの終わりを探しませんか?」
俺と違って及川さんは探していた。
だから、いないということが分かればわかるほどに、疲れていった。
俺だって、どうでもよくはない。
高校に入って得たはずの人たちは、みんな、手からこぼれて消えていった。
でも、及川さん、あなたがいたから、俺は絶望しなかった。
「ここを出ましょう、及川さん」

及川さんは簡単にはうなずかなかった。
「歩いて、どこまでも行きましょう。体力はあるんで」
もうずいぶんとロクなものを食べられていないが、
それでも普通の人よりは体力があるだろう。
「どこまでも、二人で行きましょう。終わらない夏休みなんてないんです。
 そんなものがあったら、俺は宿題なんかに追われることはなかったんですから」
「ぷっ」
及川さんが吹き出した。
「馬鹿だねー、飛雄」
そういいながらも、及川さんは楽しそうだった。

「じゃあ夏休み延長戦に、決着をつけにいこうか」
「はい」

明日から俺たちは、
二人で手をつないで、
この夏休みの終わりを見つけに行くのだろう。

きっと明日も自分は起きる。
そしてその時は、及川さんも隣にいるだろう。

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