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真夜中の声

家族が寝静まった時間の着信は、いつも高尾からだった。非常識な時間だとわかっているのか、電話に出れば、遅くにすみません、と言う。そして俺は、どうした、と問うのだ。それから沈黙がある。長さはまちまちだ。数秒であることも、数分であることもあった。簡単に言うと、高尾は俺に愚痴を零すために、夜分遅くにすみませんと前置きをして話し出すのだ。
このことについて、誰にも話していなかった。緑間あたりに愚痴を零したところで、正論を滔々と述べられるだけなのだろう。愚痴は愚痴で、吐き出さなくてはならないのに、正論を言われてはそこで言葉は止まってしまう。だから高尾は俺に電話してくるのだ。受け止めてもらえるとわかっているから。
どうして俺が高尾の愚痴を受け止めるかといえば、それが彼と自分の役割だと自覚しているからだった。俺は高尾が愚痴をこぼしたいなら、いつだったそれを聞くと決めていた。何時だろうがいつだろうが、高尾をできるかぎり優先することにしていた。これは俺だけの決意だった。高尾は知らない。けれど、以前というか、初めて高尾が俺に連絡してきた時、それは夜中の12時過ぎだった。その時俺は、いつでも聞いてやるから、愚痴がたまったら電話をして来い、と言った。それを守ろうとしているだけだった。俺は約束を違えるのは嫌いだ。
高尾に対して、高校の先輩後輩という仲だけでそこまでしているかというと、その理由は半分くらいだった。あとの半分は、それこそ自分のためだった。高校3年の卒業式、彼に告げるとも無く告げた告白を、それまで確信を持てずに為すがまま受け入れていた高尾は、目を丸くして驚いていた。やっぱり驚くのか、と内心寂しく思ったけれど、自分もふざけ半分でそれまでの言動をごまかしていた部分もあったので、それはおあいこなのだろう。
それでも高尾は、何度目かの愚痴の後、二人で居酒屋で飲んだ帰り道、宮地さんの声聞くとほっとするんです、と言った。その言葉はとても嬉しく、思わず、俺もだ、と答えそうになったのを堪えた。先輩として、それを言うのは恥ずかしかった。先輩でなければ言っていただろう。しかし先輩でなかったら高尾とそうやって居酒屋に行くことも、愚痴を聞くことも、彼に恋することもなかった。だから先輩であることを後悔したことは無かった。高尾と出会えたことを後悔したことは無かった。
宮地さんの気持ちがわかった気がします
数分後、高尾はそう切り出した。

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