ジャンル:ゼルダの伝説 お題:愛すべき地下室 制限時間:1時間 読者:563 人 文字数:3406字 お気に入り:0人

ボクのともだち


 聴唖(聞こえて喋らない)。失声症設定の「ムジュラの仮面」版リンクのお話。冒険のその後のお話。
 タミルナの文字は表音文字らしいのでひらがな表記にしてみました。でも読みにくいかも。
 チャットの性格と口調が迷子。
 ご注意ください。ごめんなさい。でも愛はあります。




 清浄な水の匂いを含んだ空気に、少年は目を閉じたまま大きく息を吸った。澄んだ風が、胸の中まで満ちた。
 初めてこの場所を訪れた時、沼の水は毒々しく赤く濁り、周辺の生命を蝕んでいたのに。
 ここはなんと美しい場所だったのだろうか。

「……ねぇ、リンク!いつまでそうしているつもり?」
 鋭い声が空気を震わせる。白い光を纏った小さな妖精が少年の鼻先をツンとつついた。
 少年が目を開く。薄い瞼の後ろから現れた一対の青は、夏のよく晴れた空を思わせる色をしていた。何処までも澄んだ奥行きのある青さだ。
「アンタ、返すって言ったじゃない」
 甲高い妖精の声に、リンクと呼ばれた少年は、ん、と喉から小さな音を立てた。肯定とも否定ともとれないその様子に妖精……チャットは少年の目の前を漂う。
「ダルマーニとミカウのお面はちゃっちゃと返しちゃったくせに、どうしてデクナッツのお面はそんなにグズグズしてるの?もしかして、道に迷っちゃった?」
 目の前で揺れる妖精を目で追いながら、リンクは違うと首を振った。

 つい数日前に終わった冒険。最後の三日間を繰り返すこの世界に新しい朝を導いた彼は、その冒険を助けてくれたかけがえのない友達を……彼らの魂はもう地上を離れていたけれど……その魂を故郷に返してきたのだ。彼らを愛していた人達に彼らの思いを伝え、癒しの歌で仮面に変えられた魂を渡しす。 もちろん、彼らの死を彼を愛する人たちに告げることは簡単ではなかった。
 彼らは愛されていた。彼らの死を受け入れられない人は沢山いた。それでも、帰ってこない英雄を待ち続けるであろう人々を彼は放ってはおけなかったのだ。

 これがリンクにとって、タミルナでの最後の旅である。

 まずはグレートベイのゾーラの岬へ。それから、ゴロンたちの住処へ。
 それからデクナッツたちの領域へと行くはずだった。
 ところがリンクは沼地に入ったきり、そこらを散策するばかり。一向にデクナッツの城へ向かおうとしなかった。そればかりか始終、心ここにあらずといった調子である。チャットが知る限り、リンクは彼自身の言葉を声に出す事ができない子供だった。その代わり、考えることは得意で、いつも迷いのない目をして彼の道を進んでいた。
 そんな普段の彼とは全く違う様子に、チャットはもどかしい思いと、少しの不安を抱いた。

「もぅ。ねぇ、リンクってば!」
 もう一度チャットに鼻をつつかれ、もの思いにふけっていたリンクは小さく首を竦める。少し考え込む素振りを見せた彼は、にわかにその場に座り込んだ。それから、すぐそばに落ちていた枯れ枝を手に取り、地面にこう書いた。

『ゴロンのダルマーニはえいゆうだった ゾーラのミカウも みんなにあいされていた』

 普通の人の口から言葉が出るのと同じように滑らかに、リンクは文字を書いた。
 わかる?というようにチャットを見上げる。
「そうね」
 その視線に、チャットは小さな羽を振って答えた。

『けれど このこをさがしてたひとは いなかった。』

 『このこ』と書いて、リンクは持っていたデクナッツの仮面を手に取って示した。手に入れて以来、いつも手にとれる場所においてあるのだ。
 丸い仮面。それは滑らかに削りだされた木材に似ているが遥かに軽く、また少しだけ温かい。日向の匂いに香ばしさを足したような匂いが微かにする。デクナッツの魂を封じ込めた証拠だ。

『ボクがはじめて、このこにあったとき  
 スタルキッドにデクナッツにかえられたとき とても こわいおもいをしたんだ』

 「こわいおもい」という言葉をリンクは少しだけ悩みながら書いた。あの時の怖さはは忘れようがないけれど、あの体験をどう表現すれば良いのかわからなかったからだ。
「怖い思い?」
 チャットが首をひねる。あの場には彼女もいたのだけれど、あれを見たのはリンクだけだったのだろう。
 
『ゆめに にいているけれど、もっと げんじつみがあったというか ゆめみたいだったけれど じっさいに どこかで かくじつにあったことだって 
 はっきりわかったから こわかったんだ』

「……何か、されたの?」

『おこられた』

 恐る恐るといった様子のチャットに応えて、リンクは一言、そう綴った。それから少し考えて、こう書き足した。

『ボクがボクであることをおこられた ボクのぜんぶがダメで いきているかちがないって そういわれた だからころしてやるって
 たくさんのデクナッツたちがいたけれど ボクのみかたは どこにもいないってわかった』

 チャットはリンクの書いた文章を黙って読んでいた。それから、やはり何も言わずに、ふわりと飛んで、リンクの頬に優しく触れた。
 「きっとその子のキオクだったのね」
 彼女の言葉に、こくりとリンクは頷く。

『だから このこ かえりたくないんじゃないかなって おもって』

 「あら、そうかしら?」
 リンクが、地面に書いた言葉を見て、チャットが声を上げた。
「その子の帰りを待ってる人だって居るんじゃない?」
 リンクは不思議そうな顔をしてくびを傾げる。
「もう忘れちゃったの?」

『だれ?』

「デクナッツの執事よ!あの人、アンタのこと息子に似てるって言ってたじゃない!きっとあの子のお父さんだったのよ」
 チャットの言葉にリンクは目をおどろいたように見開く。
 しかし、直後。
 その瞳が迷うように揺れればそれを隠すかのように彼は俯いてしまった。

『でも』

 逆接の言葉
 しかし、それは続きはしなかった。

 しばらくその場は静か静まり返っていた。水の落ちる音がどこか遠くで聞こえていた。

「仮面を手放したくないのね」
 俯いたリンクの耳元でチャットがつぶやく。
 彼女を見やったリンクの目が揺れる。
 何か答えようとしたその手はしかし、手のひらの中の枝を握りしめただけ。
「分かるわよ」
 小さな溜息がリンクの耳殻に触れる。
「アンタが仮面を手放したくないのは、寂しいからでしょ。この世界を救ったことを知っている友達と、ずっと一緒にいたいんでしょ」
 ぐっと枝を握る手に力がこもったのがわかった。
 その手の中で、枝はあっけなく折れる。
 時の勇者は無垢な子供であるが故に嘘をつけない。
「気持ちはわかるけれど、やっぱり良くないと思うわ」
 アンタは悪くないけれど。肩にとまったチャットが優しく囁いた。
「だって、あの人、きっと待ってる。ううんホントはもう、息子は死んだってカクゴを決めてると思う。でも、だからこそ伝えるべきじゃないかしら」
 ちょん、とリンクの頬をつついて、チャットは少しだけ声を弾ませた。
「ね、リンク。猿に頼んで、こっそり執事に会いましょ。それでね、仮面を渡したらこう言うのよ。あなたの息子さんは僕を一番沢山助けてくれましたって。息子さんは僕の一番のトモダチですって」
 リンクはそれを聞いても寂しそうな顔のままだった。チャットの言う事は正しく、そうしなければならないという事は分かっていた。
「それにね」
 そんなリンクに、小さく声を上げながら、チャットは付け加える。
「アンタがタミルナを救ったこと、アタシはちゃんと知ってるわ。そして忘れないわ。もし別れてもアンタはゼッタイ、一人なんかじゃないのよ」

 伏せられた金色のまつげを上げて、リンクはおどろいたようにチャットを見た。
 彼女が放つ光が粒になってリンクのまつげに引っかかり、彼は眩しそうに瞬きをする。
 それからほんの数秒、彼は何事か考えていたようだ。
 やがて彼は、ゆっくりと大きな空色の目を少しだけ細めてチャットに小さく笑いかけた。
 「元気、出たみたいね」
 その言葉に大きく頷くと、沼地の地面を蹴って駈け出した。
 青い空を映した水面は、リンクが走るたびにさざ波を立てる。
 それが、彼の後ろ姿が見えなくなるまで何処までも続いていった。
 
 

同じジャンルの似た条件の即興二次小説


ユーザーアイコン
作者:チクチク目打ち ジャンル:ゼルダの伝説 お題:哀れな祝福 制限時間:1時間 読者:15 人 文字数:1126字 お気に入り:0人
そう遠くない、なるかもしれない未来。と、いったところでそれが一体何百年、何千年後なのか、もしかしたらすぐ近い未来なのか、はたまた別次元の過去なのか分からない。皮 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:かおりん ジャンル:ゼルダの伝説 お題:僕が愛した雲 制限時間:1時間 読者:446 人 文字数:297字 お気に入り:0人
ギラヒム「・・・」珍しくギラヒムが何もせずボーッと空を見ている。何をしているのか聞くと彼は軽く笑いギラヒム「見てわからないのかい?雲を見ているのさ」空を見ると確 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:チクチク目打ち ジャンル:ゼルダの伝説 お題:女の育毛 制限時間:1時間 読者:665 人 文字数:1729字 お気に入り:0人
世界観は無双。そこに風タク組が乱入。大体ト書き御注意。●おこ魔王ズ「髪長くない」「袖揺らめかせてない」「「あと、顔付きが怖くない」」別に真後ろに別次元の本人が 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:チクチク目打ち ジャンル:ゼルダの伝説 お題:天国のオチ 制限時間:1時間 読者:685 人 文字数:2201字 お気に入り:0人
世界観は無双。そこへ風タク組が乱入しております。大体ト書き御注意。●乱闘開始「おーい。こっちのみんな~、これで一緒に遊ぼー!」唐突に何の脈絡も無しにスマブラwi 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:チクチク目打ち ジャンル:ゼルダの伝説 お題:茶色い火 制限時間:1時間 読者:1314 人 文字数:2475字 お気に入り:0人
ゼルダ無双に風タク組が遊びにきました。ト書きばっか大体魔王と勇者ばっか注意。●こっちの魔王とあっちの魔王「どうしよテトラ…」「あれだろ?わーってるって…」「す、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:チクチク目打ち ジャンル:ゼルダの伝説 お題:苦い投資 制限時間:1時間 読者:546 人 文字数:2000字 お気に入り:0人
●いるのとお帰り戴きたいのとそこそこデキるリンクの場合。「えーっと、ここの謎解きはあっちのブロックを右に押してっと」「新しい武器が手に入るダンジョンのボスっての 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:冥王碑暮 ジャンル:ゼルダの伝説 お題:せつない人体 制限時間:1時間 読者:614 人 文字数:1023字 お気に入り:0人
悠久ともとれる時間の中で、彼はただ穏やかに眠っていた。 力を欲し、国王と姫君を石へ変え、フォースを奪うために儀式を行い……悪の心を満たす念願は果たされたかに思 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:ゼルダの伝説 お題:秋の話 制限時間:1時間 読者:612 人 文字数:1451字 お気に入り:0人
四辻の続く森を少年が急ぎ歩く。紅葉した木々は風に吹かれる度に木の葉を散らし地面へ落ち葉の絨毯をつくり上げていた。美しい光景ではあったが少年には関係がない、否、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:チクチク目打ち ジャンル:ゼルダの伝説 お題:情熱的な戦争 制限時間:1時間 読者:693 人 文字数:1036字 お気に入り:0人
風のタクト 腐向け御注意 ガノリン「ガノンって着やせする体系だよね」礼儀知らずで不作法者の子供の頬を色黒の手が捻り上げる。情け容赦なく捻り上げる光景は微笑ましい 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:チクチク目打ち ジャンル:ゼルダの伝説 お題:昼の失踪 制限時間:1時間 読者:1111 人 文字数:2009字 お気に入り:0人
【風のタクト】腐向け御注意。ガノリン。モンスターが蠢く海域での航海は常に危険を伴い、漁すらままならぬ海に浮かぶ小さな小島で育てられる作物など多寡だか知れている。 〈続きを読む〉

silf*しるふ@てすとの即興 二次小説


ユーザーアイコン
作者:silf*しるふ@てすと ジャンル:ゼルダの伝説 お題:少女のもこもこ 制限時間:1時間 読者:747 人 文字数:1311字 お気に入り:0人
ガノリンかもしれないが欠片も甘くない。ガノンドロフがリンクを傷つけるお話。グロい。痛そう。リンクが喋れない設定。 壁に打ち込まれた楔とそこから伸びる鎖。それらに 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:silf*しるふ@てすと ジャンル:ゼルダの伝説 お題:禁断の空想 制限時間:1時間 読者:590 人 文字数:1330字 お気に入り:0人
時オカ敗北ルートでガノリン。 直接そういう描写は無いけれど、一応ヤる事ヤってる前提で書いてます。 文化的な捏造要素が少しあります。ガノンドロフ様の寝間着が浴衣 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:silf*しるふ@てすと ジャンル:Sound Horizon お題:メジャーな太陽 制限時間:1時間 読者:329 人 文字数:3949字 お気に入り:0人
現実と幻想を認識出来ていない類の言動を繰り返すインタビューアーたち三人のお話。ノエマリ要素あり。捏造思い出話もあります。 ヴァニスタ否定しちゃってる感あるので 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:silf*しるふ@てすと ジャンル:ゼルダの伝説 お題:朝の傘 制限時間:1時間 読者:469 人 文字数:3164字 お気に入り:0人
時の勇者とゴーストショップの主人のお話。 心の赴くままに書いてます。メタいかもしれない。 相変わらずリンク君は喋らないし、喋っている人も口調が迷子。 「今日の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:silf*しるふ@てすと ジャンル:Sound Horizon お題:あいつと同性愛 制限時間:1時間 読者:392 人 文字数:2390字 お気に入り:0人
結構前に書いた『夢十夜』パロ。第一夜。 ノエルと山さんで腐向け。第一夜 こんな夢を見た。 ノエルがベッドの枕元に座っていると、何故か仰向きに寝た山口一がいる。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:silf*しるふ@てすと ジャンル:ゼルダの伝説 お題:オチは口 制限時間:1時間 読者:488 人 文字数:1155字 お気に入り:0人
時オカのopの、「平和なハイラルを馬で駆る青年勇者」ってゲームの中では実現しないよなぁって思って書きました。リンクが見た夢のお話。腐向けではない。チャットの口 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:silf*しるふ@てすと ジャンル:Sound Horizon お題:無意識の黒板 制限時間:1時間 読者:393 人 文字数:2698字 お気に入り:0人
ノエルとマリィマリィのような、ノエルと店主のような、ノエルとミシェルのような。 ホラーだと言い張ってみるものの文才がないので怖くない。 『まずエレベーターに乗 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:silf*しるふ@てすと ジャンル:ゼルダの伝説 お題:絵描きの火事 制限時間:1時間 読者:635 人 文字数:5223字 お気に入り:0人
全てを奪われた時の勇者と、優しくて美しくて絶対的な女神ハイリア様のお話。 流血表現があります。 例によってお題は無視。いろいろあれ。 森の中を一人の青年が馬に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:silf*しるふ@てすと ジャンル:ゼルダの伝説 お題:愛すべき地下室 制限時間:1時間 読者:563 人 文字数:3406字 お気に入り:0人
聴唖(聞こえて喋らない)。失声症設定の「ムジュラの仮面」版リンクのお話。冒険のその後のお話。 タミルナの文字は表音文字らしいのでひらがな表記にしてみました。で 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:silf*しるふ@てすと ジャンル:ブレイブリーデフォルト お題:ひねくれたローン 制限時間:1時間 読者:471 人 文字数:4281字 お気に入り:0人
いつか診断メーカーで出た『いつかは捨てられる、と信じて疑っていない』ティズアニ。但しそのとおりとは限らない。 8章突入直後のカルディスラにて。 ネタバレほんの 〈続きを読む〉