ジャンル:血界戦線 お題:アブノーマルな祝福 制限時間:1時間 読者:327 人 文字数:2393字 お気に入り:0人
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【レオフェム】祝福のリバイバル

「祝福のキスを贈りたいと思う」
 その日の堕落王フェムトが発した言葉はとても唐突な内容で、レオナルドは手に持った封筒を危うく取り落としかけた。
 帰宅した部屋にいつの間にかフェムトが居る。居るだけでなく我が家のように寛いでいる。そんな光景にはもう慣れたが、彼が発する言葉には今でもこうして驚かされることばかりだった。
「なんすか薮から棒に……」
「自分の要望を君に伝えたまでだよ、それともこれから言うから耳掃除して待っていてくれと一時間前に電話で伝えておくべきだったかね?」
 なんでこんなに両極端なんだと口角を下げて眉根を寄せつつテーブル前まで進む。
 レオナルドはバックパックを椅子に下ろすと手元の封筒に視線を落とし、そのままベッドに腰掛けた。
 フェムトは半ばスルーされているというのに気を悪くした様子もなく、さも当たり前のように隣に座る。
「いいか、レオナルド。神の祝福が特別であるように、堕落王の祝福もまた特別なんだ。少しは光栄に思い給え」
「いや、どうせ碌でもないこと考えてるんでしょ」
「しっつれいな!」
 フェムトは口先を尖らせたがレオナルドは封筒の封を開けるのに忙しい。
 彼がこんなことを言い出した理由はなくとなくわかる。わかるが――友人として過ごしてきた今までの時間を振り返るとあまり歓迎できる祝福でないのは明らかだった。祝福のキスを受けた瞬間に「おめでとう、君は人間を卒業した!」などと言われてはたまったものではない。
 封を開けると白いシンプルな便箋に見慣れた文字が躍っているのが目に入った。
 この特殊な義眼を通してなお懐かしく感じる、昔と変わらない文字。
 それを一文字一文字ゆっくりと読みながら口元を緩めていると、隣から覗き込んでいたフェムトもまた同じ顔をした。つい珍しさから視線をそちらに奪われたところでフェムトは便箋をつつく。
「彼女もまた祝福している」
「……は、はい」
「なあ、僕が祝ってもいいだろう?」
 レオナルドは言葉に詰まる。
 きっと碌でもない。
 確実に碌でもない。
 しかしここまで真正面から言われて断るというのもしのびない。
 それにほんのちょっとだけなら思うのだ。彼に、フェムトに祝われてみたい、と。
「………」
 数秒間無言でフェムトを見つめる。仮面に覆われた顔からは相変わらず表情が読み取りにくいが、彼が返事を待っていることだけはひしひしと伝わってきた。
 もう一度手紙に視線を落とす。

 ミシェーラの文字と、その文字たちが形作っているのは兄の誕生日を祝う言葉だった。

 要するにフェムトはレオナルドの誕生日を祝いたがっているのだ。そこに祝福のキスなど持ち出してくる辺り何を考えているのかわからないが、感情自体は悪いものではないだろう。恐らく。
「……なんでそんなに祝いたいんですか」
「愚問だな、友人の誕生日を祝うのにご大層な理由が必要か」
「いや、その、それは」
「それに僕はキスがしたい」
 レオナルドはまた封筒を取り落としかけた。
(は!? もしかして祝いたいっていうよりキスしたいだけ? でも俺男だぞ……!?)
 目を白黒させているとフェムトは仕方ないなぁという顔をした。このまま諦めてくれるのか、と思いきやベッドに手をついて顔を寄せてくる。囁くような声が耳に届いた。
「そんなに心配なら予行練習を挟んでやろうか」
「へ――」
 返答する前にフェムトの唇が一瞬だけ自分のそれと重なり、仮面の一部が頬に擦れた。思っていたより仮面は冷たくない、などと斜め上のことを思いながらレオナルドはぽかんとしたまま離れていく相手の顔を見つめる。
「は、は、はあああああ!?」
「ちょ、煩いな!」
「いや、待っ、本番じゃん!? これ本番じゃん!?」
 何の捻りもない普通のキスだったが、今はそれをあまり救いのようには感じなかった。悲しきかなこれがファーストキスなのだ。両親にはされたことがあるかもしれないが、それはノーカウントというものだろう。
 レオナルドとしては男同士のキスなどアブノーマルの粋だ。それでも我に返ったその瞬間から自分でも驚くほどどきどきし始めた心臓に戸惑う。相手の唇を直視していられない。
 この堕落王は油断ならない相手であることは重々承知していたが、改めて今日はとことんそれを思い知らされた。
 フェムトは面白そうに笑う。
「何を言ってるんだい」
「は、い?」
「僕がしたいのはそこじゃないよ」
 そして面白そうに言う。
 己の唇に指を沿わせ、首を傾け、白髪を揺らし、小さな笑い声を漏らし。
 レオナルドの胸の中心をトン、と片手の中指で突き、未だ激しく鼓動を繰り返すそれを指すように。

「――祝福のキスを贈りたいのは、君の心臓にさ」

 やはり、堕落王の言い出すことは碌でもない。
 尖った犬歯を覗かせて笑うその姿に体を震わせつつも、それでも胸に湧いてくるのは恐怖ばかりではないことにレオナルドは気付いていた。
 唇を戦慄かせながら首を横に振る。
 ここで彼を驚かせれば、そしてそれで満足させることが出来れば、彼はこの恐ろしい願いを諦めてくれるかもしれない――そんな打算がほんの少しでもあったのは否定できないが、これから口に出そうとしていることのほとんどは本音だった。
 本当に祝ってくれるなら、そんなものより欲しいものがある。
 手紙をシーツの上に置き、勢いに任せてフェムトの肩に手を置く。そのまま握ると白衣に皺が寄った。広くも華奢な肩の形が露になって自然と自分の喉が鳴る。
 目を離していた相手の唇をいつの間にか再び凝視していた。
 レオナルドは一世一代の告白をするように掠れた声で言う。
「そんな場所より、……もう一度唇にしてください」

 自分も大概碌でもないなと、そう思いながら。



END

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