ジャンル:弱虫ペダル 東巻 お題:奇妙な小説の書き方 制限時間:1時間 読者:205 人 文字数:2107字 お気に入り:0人

彼の小説の原案となった東巻 ※未完

 新開が小説を書いた。

 しかも結構な評判のある文芸誌に掲載されたと聞いて、シダックスという名のオフレコ会場に集合したかつての学友達は盛り上がった。

 海外でタイトルを取ってニュースに出たロードレーサーやら、今をときめくファッションブランドの看板デザイナーだの、ややこしい面子が混じると集まる場所にも気を遣う。
 居酒屋で羽目を外して東堂が巻島のケツをガン揉みしているショットをスポーツ新聞に掲載され、なぜかロンドンからの国際電話で巻島の実兄だとか言う大手アパレルブランドのCEOから(東堂の代わりに)怒られるハメになった荒北靖友は、それ以来なるべく東堂と巻島がいる場所には近寄らないようにしていた。
 後日、巻島裕介からウィスキーと洋酒のきいたジャムの詰め合わせが空輸で贈られてきたけど、荒北としてはまだ腹に据えかねている。
 巻島を嗅げば分かる。罪悪感とか後ろめたさとか、これでなんとか凌ごうという薄暗い臭いとは全く無縁の、昔と同じ甘いラズベリーぽい匂い。
 ――そりゃ溝みたいな臭いに染まるよか良いけどサァ? それでめでてえけどよぉ? 巻チャァン、実は何にも反省して無いよねぇ!?
 後日、同じ会社に就職した金城から「巻島という人間は懲りない奴だから」と笑って慰められたが荒北は納得していない。なぜか福富から電話が掛かってきて「大変だったようだな」と労われたのが救いだが、それが金城経由での働きかけあっての電話だったと知ったときはやり場のない感情の始末に困った。期待したのに。すげー期待したのに! オレ、イロイロとすげー期待したのよぉ福チャァン!
 荒北靖友29歳。春はまだ遠い。

 そんなこんなで新開と親しい田所から、なんかお祝いを贈りたいから集まらねぇか?という呼びかけがあったとき、不幸にも東堂は日本に帰省していたが、幸運なことに巻島の方はロンドンにいると田所のメールで確認できた。それを確かめてから荒北はこの話に乗ったのだ。
 わざわざ新開にバレないよう本人のスケジュールをチェックした。彼はサイクル誌に掲載する小さなコラムの締めきりと写真撮影があって一日中東京だ。
 東堂、田所、荒北。あと影が薄いけれど黒田と泉田のペアもここにいる。二人は熱心にサイクルブランドのカタログを開いて、あれやこれやと相談していた。新開を尊敬している泉田と、泉田ほどではないが新開の人柄を慕っていた黒田は、消耗品が良いのでは、しかし記念なのだから残る物を意見を決めかねている。
 ず、と音を立ててコーラを啜った田所が首を捻った。
「……たまに顔を合わせることはあるけどよ、アイツが本を読んでる姿を見たことねぇぞ」
「いや、秦野中学校時代はかなりの読書家だったとフクが言っていたが」
 カフェインフリーのアイスハーブティを手に東堂が解説する。そういう東堂自身も、高校時代をどれだけ回想しても新開が新書を読んでいる姿は思い出せない。いや、文庫本なら手にしていただろうかと首を捻ってみるが、思い浮かぶのは――。
「パワーバー持ってる姿しか出てこねぇなぁ」
 田所が実家のパン屋から持ってきた焼き菓子と菓子パンの詰め合わせをぽんと叩いて、ガハハと笑ってまさに同じ初見を述べた。
「アイツぁ推理小説が好きだって、ねぇ、たまに今井と綾辻行人だの東野圭吾だの汀こるものの話してたかよ」
 荒北はぼんやりと箱根学園自転車競技部の豪華な設備の陰で語り合う今井と新開を思い浮かべた。
「コナンドイルとかクリスティとかじゃねえのか、カジュアル路線だな」
 テーブルの中央に置かれた山盛りポテトは田所の手で淡々と減っていく。
「今井の読んでる範囲だろな」
 東堂が前髪を弄りながらじつに興味なさそうに呟いた。
「映画の趣味はけっこう重かったですね」
 泉田が長い睫をしばたかせて、三人の会話に加わった。
「どんなだったヨォ」
「ヒューマントラフィックとかイースタンプロミスですね」
「重いな」
 そちらも東堂の趣味ではないようで、興味をかき立てられないのか、眉が一度ぴくりと動いたきりだ。
「どんな内容だよ。ヒューマンとかプロミスとか感動映画っぽいじゃねぇか」
「人身売買組織を追いかける捜査官の話っショ」
 あまーいラズベリーの香りを嗅いだ瞬間、荒北は狭いブースを出て行こうとジャケットを掴んだ。その背中を押し退けるように東堂が立ちあがって身を乗り出した。
 さっきまでの冷めた態度とうって変わって、両眼がキラキラと輝き満面の笑みを浮かべている。
「わりぃ、羽田からのバスを間違えた。これ土産な」
「巻ちゃん!」
「おー田所っち。久しぶりだなァ――あと東堂も」
 ぎゅっと抱きつこうとした東堂を器用に避けようとして、生まれついた運動神経の差でがっつりと抱きしめられた挙げ句に東堂が長い足を組んで占拠していたソファに強制着席させられた巻島は、肩になついてくる美形から顔をぎりぎりまで離しながら、紙袋を田所にむかって突きだした。
「これ。金城の分もな」
「巻ちゃん、この美形と一ヶ月ぶりの逢瀬なのにそりゃないぜ!」
「お前とはロンドンで」

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